認知症との誤診に注意! 高齢者のてんかんはけいれん発作が生じないケースが多い

AI要約

高齢者におけるてんかんの症状やリスクについて述べられている。

てんかん発作が認知症と誤診されることがあり、適切な診断と治療が必要であることが強調されている。

早期診断・早期治療が重要であり、抗てんかん薬の適切な投与が効果的であることが示唆されている。

認知症との誤診に注意! 高齢者のてんかんはけいれん発作が生じないケースが多い

 認知症だと思っていたら、実は「てんかん」だった──。北里大学医学部精神科学講師で相模原市認知症疾患医療センター長の大石智氏によれば、こういったケースは珍しくないという。詳しく話を聞いた。

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 自動車整備工場で働く60代後半の男性は、2~3年前から職場で「ぼんやりしていて会話が成り立たない」「指示した内容を何度も忘れる」と指摘されていた。

 受診した近所の脳神経内科では、アルツハイマー型認知症の疑いがあるとの診断。経過観察の状態が続いていたが、今から約半年前、家族旅行から帰宅すると、旅行の記憶がスッポリ抜け落ちていることに気が付いた。異変を感じた家族に促され、大学病院で検査を受けた。診断名は「てんかん」だった。

「てんかんは、脳の神経細胞が過剰に興奮することで一時的な症状が繰り返し起こる脳の慢性疾患です。高齢者てんかんで最も多いのが脳卒中の後遺症で、約30~40%を占めるといわれています。ほかにも脳腫瘍や頭部外傷、アルツハイマー病によって発症しますが、全体の3分の1は原因不明とされ、誰にでも発症する可能性がある病気です」

 てんかんというと、「子供の病気」というイメージが強いかもしれない。子供のてんかんではけいれん発作がよく見られるが、高齢者の場合、それは非常にまれで、けいれんを伴わない「複雑部分発作」が見られやすい。具体的には、「ボーッとしている」「呼びかけに反応しない」といった意識障害や、「口をペチャペチャ・モグモグさせる」「机や膝の上を指でトントン叩く」といった状態だ。 1~2分ほど続くが、目立った症状ではないため、周囲が異変に気付きにくいという。

「高齢者がてんかん発作を起こすと、発作直後に意識障害が残る『もうろう状態』になることがある。自力で食事が取れないだけでなく、あちこちウロウロと動き回るので、壁にぶつかったり転落する危険があります」

 発作の後のもうろう状態は、数十分から長くて1週間続くケースも見られるが、本人はその間の記憶がないので、意識が回復しても周囲と話が噛み合わない。

「発作は飲酒や寝不足のほか、抗コリン作用を含む薬剤によって誘発されやすいことが知られているので、注意が必要です」

 通常、てんかん発作は数分で消滅するが、子供に比べて高齢者は意識障害が回復する前に何度も発作を繰り返す「てんかん重積」を来しやすい。入浴中であれば溺死、運転中であれば事故につながりかねない。

 さらに一度重積状態を起こすと、その状態をまた起こしやすい。脳の一部が興奮した状態が長時間続き、脳細胞がダメージを受けて脳機能障害や精神機能障害などの後遺症が残る恐れがある。

■少量の薬で発作を9割抑制

 早期診断・早期治療のためにも、問診で発作発生時の状況を詳しく伝えるのがポイントだ。

「診察では『いつから』『どんな時に』『どんな症状』が起こるのかを伝えるようにしてください。発作の頻度を聞き取り、てんかんの疑いが高ければ脳波検査で突発波と呼ばれる異常な脳波の有無を確認します」

 問題は、1人暮らしの場合だ。日頃の様子を把握する人がいないと症状を拾い上げるのが難しい。

「そういった場合には数日間入院してもらい、昼夜問わず脳波をとり続ける長時間ビデオ脳波モニタリングと呼ばれる検査を実施します。加えてMRIやCTといった画像検査で発作の局在部位を見極めたり、他の病気と鑑別するために血液検査も行います」

 てんかんの治療は、抗てんかん薬の経口投与が一般的。とりわけ高齢者の場合、少量でも治療効果が非常に高く、およそ9割は発作を消失または抑制できるとの報告もある。

 一方で、認知症と誤診されるとてんかん治療の機会を逃すだけでなく、認知症治療薬は逆にてんかん発作を誘発させることが知られている。物忘れ=認知症と思い込まず、てんかんの疑いも持つべきだ。