認知症リハビリでは具体的にどんなことを行うのか?【正解のリハビリ、最善の介護】

AI要約

ねりま健育会病院では、認知症のリハビリにおいて予防リハから始めるアプローチを取っている。

予防リハでは、筋力と体力の向上を重視し、トレーニングを通じて認知症リスクを低下させる取り組みを行っている。

また、予防リハの重要性や具体的な取り組みについて詳細に説明がされており、誰もが理解しやすい内容となっている。

認知症リハビリでは具体的にどんなことを行うのか?【正解のリハビリ、最善の介護】

【正解のリハビリ、最善の介護】#38

 私が院長を務めるねりま健育会病院は、急性期治療後に病気やケガで後遺症が残ってしまった患者さんが対象になる「回復期リハビリ病院」と、慢性的な疾患を抱えていたり全身状態が衰えている要介護の高齢者を対象として在宅復帰に向けた本格的なリハビリを行う「介護老人保健施設(老健)」の機能を併せ持っています。

 認知症の患者さんはもちろんですが、たとえ高齢でも認知症ではない方に対しても、われわれは「認知機能向上リハビリ」を実施しています。今回から認知症リハビリについて詳しくお話ししていきます。

 認知症リハビリには、発症を遅らせる①予防リハ、発症後に進行を遅らせる②軽症リハ、進行しても生活が困らないようにするための③中等度リハ、自分や家族がわからないほど進行しても介護者の負担を減らすための④重症リハの4つがあります。まずは①予防リハをお話しします。

 認知症とは、加齢や疾患によって脳に変性と萎縮が生じ、認知機能が徐々に低下して日常生活に支障を来す疾患です。病態によっていくつか種類がありますが、脳の変性そのものが原因となる代表的な認知症がアルツハイマー型で、認知症の約70%を占めています。80歳以上の年を取れば誰もが発症する可能性があり、脳の変性は発症する10年以上前から生じ、徐々に進行していきます。ですから、誰しも60歳を越えたあたりから予防リハを行うのが理想的といえるでしょう。

 とくに、脳卒中などで脳が壊れてしまった部分がある患者さんや、病気や加齢で筋力と体力が衰えて運動量が低下している方は、認知症のリスクがアップします。そうしたことも考慮して、われわれの施設では、認知症を発症していなくても高齢者のほぼ全員の方に予防リハを実施しています。

■「予防リハ」ではまず筋力と体力を向上させる

 最も大切なのが、筋力と体力の向上です。廃用症候群で寝たきりになってしまった患者さんのリハビリを解説した際にもお話ししましたが、まず行うのは、朝起きて夜寝るまではベッドに寝かせることはせず、日中は覚醒した生活リズムを保ちます。そして、イスに座らせて、立たせて、歩かせて、コミュニケートすることです。これにより筋力、体力、心肺機能と意識を向上させます。ただこれは最低限のラインで、なんとか動ける状態では自宅に戻っても転倒して再び寝たきりになって、認知症につながるリスクが高いといえます。

 そこで、さらに筋力と体力を上げるために、われわれの施設ではマシンや器具を使った純粋な筋力トレーニングを100歳の方でも行っています。とりわけ、お尻の筋肉が痩せて衰えると転倒リスクが高くなるので、「転ばないお尻とたくましい太ももをつくりましょう」というキャッチフレーズを掲げ、お尻を含めた下肢の筋力をアップさせるトレーニングに力を入れています。さらに、腹筋、背筋、上半身の筋トレにも取り組みます。

 ただし、いくら軽くても、その方が持ち上げられない重さのバーベルを無理に持ち上げるよう強制してしまうと楽しくありませんし、“拷問”になってしまいます。なので、その時点で5キロのバーベルを10回しか持ち上げられない方であれば、まずはその強度かそれ以下からスタートさせ、クリアできれば「しっかりできましたね。次は10キロで10回を3度行うことを目標にしましょう」といったように評価しながら本人のやる気を促し、週単位でゆっくりと重さや回数を増やしていく必要があります。また、担当のスタッフやトレーニングに臨んでいるほかの方たちと交流するようにして切磋琢磨できる環境を整えることも大切です。

 施設に入居している期間はマシンを使って筋トレできるけれど、自宅にはマシンがないから難しいという人には、毎日ではなくなりますが、通所リハ(デイケア)で継続ができます。また、以前もお話しした「立ち上がり訓練」を行ってもらっています。イスに座った状態から、手は使わずに腰を浮かせてスッと立ち上がります。立ち姿勢では床に踵をつき、膝と股関節を伸ばします。次に上半身を少し前に倒してお辞儀するような姿勢で腰を落とし、ゆっくり再びイスに座ります。ドスンと座ると、圧迫骨折の原因になります。

 この動作を連続して30回が1セット、朝、昼、晩と1日3セット行います。30回×3セットですから1日合計90回です。ただしこれは最低限の回数で、可能ならば50回×3セット、1日合計150回行います。この訓練を継続して行えば、足腰の筋力や股関節の動きが安定して、転倒骨折が起こりにくくなるのです。

 予防リハで行うのは筋力トレーニングだけではありません。次回詳しくお話しします。

(酒向正春/ねりま健育会病院院長)