【社説】金鷲旗・玉竜旗 力を出し切り人生の糧に

AI要約

金鷲旗・玉竜旗高校柔剣道大会が福岡市で開幕し、伝統ある団体戦で435チームと854チームが競う。被災地からも参加し、選手たちの熱戦や交流が未来を切り開く糧となる。

大会は抜き勝負で個々の選手が力を発揮し、被災地を励ます力となる。自然災害の影響もあり、選手たちは団結し、勇気を示している。

武道の全国大会の歴史や選手の成長が示唆され、柔剣道選手が世界で活躍する姿が期待される。ただし、新型コロナウイルスの感染予防は必要不可欠である。

【社説】金鷲旗・玉竜旗 力を出し切り人生の糧に

 主役は全ての選手だ。チームメートと共に、己を磨く高校生にエールを送りたい。

 抜き勝負の5人制団体戦で伝統の大旗を争う金鷲旗・玉竜旗高校柔剣道大会が、福岡市できょう開幕する。

 柔道の金鷲旗大会は435チーム、剣道の玉竜旗大会には854チームが挑む。いずれも昨年を上回る。金鷲旗大会には米国、韓国、台湾の海外チームも出場する。

 国内外の仲間と競い合い、交流して得たものは、未来を切り開く糧となるはずだ。

 元日の能登半島地震で被災した石川県からは両大会に計13チームが参加する。あるチームは「震災に負けないように、被災地に元気を与えられるように頑張ります。1勝でも多く勝てるように一生懸命戦います!」と、参加申込用紙に決意を書いた。

 全選手がその心意気を共有し、持てる力を出し切ってもらいたい。きっと被災地を励ます力になる。

 熊本地震や九州豪雨など、甚大な被害をもたらす自然災害が全国で頻発している。被災経験のある選手もいるだろう。決して人ごとではない。

 両大会は予選のないオープン参加の全国大会なので、出場する選手、試合の数が桁違いに多い。会場に設けられた10の試合場で同時に熱戦を繰り広げる光景は壮観だ。観客席から選手を鼓舞する声援と拍手は途切れることがない。

 抜き勝負には独特の見どころがある。勝ち続ければ1人で5人抜き、10人抜きを達成できる。土壇場で大将が劣勢を覆す場面は圧巻だ。

 抜いたら勢いがつく。抜き返されても諦めずに挽回を期す。一つの試合で順風と逆風が変化し、逆転可能な勝負は人生にも例えられよう。

 九州学生武道大会として始まった1916年、参加したのは柔道と剣道合わせて27校だった。規模が大きくなるとともに、たくさんの選手が国際大会へと羽ばたいた。

 26日に開幕するパリ五輪では柔道の男女代表計14人のうち、金鷲旗大会経験者が13人を数える。阿部一二三(ひふみ)選手と妹の詩(うた)選手、素根輝(そねあきら)選手はそろって五輪連覇を目指す。

 2017年の女子決勝は、夙川学院(兵庫)先鋒の阿部詩選手が4人を抜いた後、南筑(福岡)大将の素根選手が5人を抜き返して劇的な優勝を決めた。金鷲旗大会の歴史に残る名勝負である。

 イタリアで今月開催された剣道の世界選手権は、男女各10人の代表全員が玉竜旗大会の先輩だった。今年の玉竜旗大会の出場者が、3年後の世界選手権東京大会で躍動するのが楽しみだ。

 少し気がかりなのは、新型コロナウイルスの感染者が増えていることだ。手洗いや手指の消毒、適切なマスクの着用など、基本的な防止策を徹底しなくてはならない。

 感染拡大で20、21年の大会が中止となり、悔し涙を流した先輩がいることを忘れないでほしい。