「最近眠りが浅くて...」加齢に伴う睡眠の変化とは?

AI要約

睡眠時間が加齢とともに減少し、高齢者では6時間を切っても健康リスクが上がらないことがわかる。

高齢者にとって8時間以上の睡眠は睡眠の質が低下し、深いノンレム睡眠が減少している。

高齢者はさほど眠りを必要としておらず、睡眠への不安や不満が生じやすい。

「最近眠りが浅くて...」加齢に伴う睡眠の変化とは?

「足腰が弱っちゃってね」「物忘れが気になるんだ」「耳が遠くなって会話に苦労しているよ」──。

団塊の世代である筆者の周囲で、こんな話題が交わされるようになって久しい。歳を重ねれば心身に具合が悪い部分が生じるのは、自然界の生きものとして当然のことではある。だが、自らの知恵で長寿を獲得したヒトにとって今、充実した長い老いを過ごすうえで必要な「健康の継続」が課題になっている。

新刊『老化と寿命の謎』では、「加齢関連疾患とその周辺」を追い、健康長寿への道を模索する。

*本記事は飯島裕一『老化と寿命の謎』から抜粋・再編集したものです。

加齢に伴って、実際の睡眠の時間や内容が大きく変化することが医学的に突き止められている。

図1を見ると、歳を重ねるとともに睡眠時間が大きく減っていく様子がよくわかる。高齢者に顕著で、60~69歳の睡眠時間は6時間余りになり、70~79歳では5時間半程度にまで落ちている。

歳を取れば、若い頃に比べて活動量も基礎代謝量も減少する。細胞などの代謝自体も減ることから、短い睡眠時間で「事足りる」と考えるのは自然であろう。

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の栗山健一部長らの調査では、若い人では睡眠時間が6時間を切ると健康を害する危険性が有意に高まるが、高齢者では6時間を切っても健康リスクが上がらないことがわかっている。

むしろ、「高齢者にとって8時間以上の睡眠は、睡眠の質が低下する。(病人でない限り)8時間以上睡眠を取ろうと床で過ごすことは健康に良くない」と栗山部長は言う。

「若い人はよく寝てほしい、高齢者はさほど眠りを必要としていない──ということです」

睡眠の内容に目を移すと、脳を休息させ生体機能も整える働きを持つノンレム睡眠のうち、「浅いノンレム睡眠」はそう変化しないが、「深いノンレム睡眠」は60.70歳代では大きく減少している(図1)。

栗山部長は、「覚醒と睡眠の変動の大きさ(振幅の波)が、加齢とともに小さくなり、眠りは浅くなる。昼間に眠気を感じる時間が増えるにもかかわらず、睡眠量は減ってくる」と解説した。

このような睡眠状況の変化が、高齢者の「睡眠への不安・不満」にもつながっているようだ。さらに高齢者は、さまざまな体調不良を抱えがちだ。「体調が悪いのは、よく眠れていないからだろう」との思いや、「健康には、十分な睡眠が欠かせない」といった強迫感を持っているお年寄りも目につく。