新規開発バブルで潤うのは外部参入企業やコンサルばかり…小規模零細には出る幕なしか【インバウンドに翻奔される地方都市の今】

AI要約

岐阜県高山市の路線価が上昇し、観光需要が背景にある

奥飛騨温泉郷では駐車場の増設計画が進行中で疑問の声も

地方都市でのインバウンド観光の活況と影響について懸念が広がっている

新規開発バブルで潤うのは外部参入企業やコンサルばかり…小規模零細には出る幕なしか【インバウンドに翻奔される地方都市の今】

【インバウンドに翻奔される地方都市の今】#4

 今月1日、全国の「路線価」の最新版が公表された。岐阜県高山市内の路線価は、観光需要の高まりを背景に前年比17.8%の上昇率で全国4位。そんな高山市街地の商店街では、廃業した店舗を更地にして駐車場としている光景があちこちで目に付いた。水面下で、不動産業者が土地所有者に“廃業のメリット”をささやいている可能性もなくはない。

 同市東部の「奥飛騨温泉郷」の平湯温泉では、300台の駐車場の増設計画が進められている。高山市が策定した奥飛騨温泉郷を活性化させる構想がバックボーンにあるのだが、平湯にはすでに800台超の既存の駐車場がある。これには「満車になる見通しも立たないのに、多くの木を切り倒してまでやる必要があるのか」とする声も上がっている。

 岐阜県の東隣である長野県はどうか。「リスト サザビーズ インターナショナル リアルティ」の調査によれば、昨年、軽井沢の別荘地取引件数は前年比で2.6倍になった。コロナ禍のリモート需要などが別荘価格を“1億円超え”に引き上げ、不動産取引も活発化しているようだ。避暑地で知られる軽井沢にはインバウンド客も多く、新たなホテルの開業や大手資本による商業施設の計画も浮上する。

 軽井沢町から近い小諸市で人力車夫として観光業に従事する喜楽屋笑太さん(40代)の内心は複雑だ。小諸市もインバウンドの活気が戻り、一見、盛り上がっているように見える。「けれども、資金が流れていく先は外部から参入した企業やコンサルだったりする。昔から頑張ってきた事業者が置き去りにされている感じがします」と訴える。

 高山市内でも「行政は大手資本の新規事業を応援しても、小規模事業者には背を向ける」という不満をあちこちで聞いた。確かに同市ホームページには、補助金や融資などいくつかの助成メニューはある。だが「実際には審査は厳しく、長期的に見ても小規模事業者に有利なものとはいいがたい」(同市の小売り事業者)。

 そして、高山市内の観光事業者は別の危機感も持っている。

「日本ファンの外国人観光客の中には毎年訪れるリピーターもいますが、高山の静寂や地元の生活・人情がなくなれば、早晩来なくなります。今の訪日客は“日本ブーム”だから来ている人たち。彼らが次の目的地へシフトしたとき、誰が高山に来るのでしょうか」(田中聡さん=仮名、50代)

 政府は、6年後の2030年に6000万人のインバウンド客を誘致する目標を掲げ、そのための受け皿づくりが進んでいる。だが、観光ブームの終焉とともに廃虚と化した日本の観光地もある。肝要なのは、はやり廃りに左右されないことだろう。 (おわり)

(姫田小夏/ジャーナリスト)