異例の大反響! BSフジ・鉄道ドキュメンタリー『今こそ鉄路を活かせ』の監修者が公共交通を改めて問う

AI要約

2024年5月5日に放送されたサンデードキュメンタリー『今こそ鉄路を活かせ! 地方創生への再出発』では、赤字ローカル線の現状や問題点が取り上げられた。

JRグループの経営状況や路線廃止の背景、JR西日本の営業黒字回復の過程が紹介された。

番組制作会社の堀内雄一郎氏は、赤字ローカル線の問題を抱えるJRと地域との乖離に言及している。

異例の大反響! BSフジ・鉄道ドキュメンタリー『今こそ鉄路を活かせ』の監修者が公共交通を改めて問う

 筆者(櫛田泉、経済ジャーナリスト)は2024年5月5日にフジテレビの衛星放送「BSフジ」で放送されたサンデードキュメンタリー『今こそ鉄路を活かせ! 地方創生への再出発』で番組監修という形で携わった。

 役割は事実関係に誤りがないか番組全般を

「監修」

することだった。番組は、北海道から九州まで岐路に立つ赤字ローカル線をつぶさに取材し、各地で何が起こっているのかを明らかする目的で制作された。

 番組終了後、BSフジには

「北海道庁は何をしているのか」

という、これまでの鉄道特番では見られなかった反響が寄せられたほか、JR北海道からは小樽駅舎などの外観の撮影は、駅舎の

「無断撮影」

にあたるというクレームが寄せられた。しかし、番組の制作会社は、JR北海道のほとんどの路線を20年以上撮影しており、このようなクレームが

「前代未聞」

と困惑している。

 この番組を制作したワイズプロジェクト(大阪市)の社長で、プロデューサーの堀内雄一郎氏は、

「明らかに失敗だった国鉄改革にメスを入れながら全国各地の鉄路を今こそ生かすべく番組を制作した」

と振り返る。1987(昭和62)年に国鉄分割民営化により誕生したJRグループは、

「国鉄から引き継いだ全路線を維持」

できるよう制度設計され発足したはずであった。経営環境が恵まれているJR東日本、JR西日本、JR東海3社については大都市部の利益の内部補助でローカル線の維持ができるように、本業の鉄道事業で利益の見込めない

・JR北海道

・JR四国

・JR九州

の3島会社については、経営安定基金の運用益で鉄道事業の赤字を穴埋めし全路線の維持ができるとされた。

 JR北海道では、年間の適正赤字額を約500億円として、当時の10年国債利回り年7.3%を前提に、国は赤字の穴埋めに必要な金額を6822億円と算出し、これを経営安定基金としてJR北海道に与えた。

 しかし、その後の国の低金利政策により長期金利は年を追うごとに低下し、2019年にはついにマイナス0.27%となった。当時の国が考えた経営安定基金の運用益で赤字を賄うモデルはすでに1990年代には破綻しており、こうした資金不足の問題が2011(平成23)年以降さまざまな形で問題が表面化した。

 2011年5月には、石勝(せきしょう)線で列車脱線火災事故が発生し、9月には中島尚俊社長が自殺。2013年9月に発生した函館本線大沼駅構内の貨物列車脱線事故では脱線現場の線路の検査データが改ざんされていたことが発覚し、翌2014年1月に坂本眞一元社長が自殺している。さらに、北海道内ではこれ以降、

・江差線木古内~江差間

・留萌本線留萌~増毛間

・石勝線夕張支線新夕張~夕張間

・日高本線鵡川~様似間

・札沼線(さっしょうせん、学園都市線)北海道医療大学~新十津川間

・留萌本線石狩沼田~留萌間

・根室本線富良野~新得間

と路線の廃止が進んでいる。

 一方で、完全民営化を果たしたJR西日本ではコロナ禍の渦中、2021年度の赤字路線30区間を公表。これらの路線沿線には

「鉄道が廃止になるのではないか」

と衝撃が走った。JR西日本は、2021年3月期の連結決算で2455億円の営業赤字を計上し赤字転落し、2022年3月期でも1191億円の営業赤字を計上したが、2023年3月期では840億円の営業黒字を計上し業績は回復。直近の2024年3月期では1797億円の営業黒字となり、業績はほぼ回復している。

 こうしたなか、JR西日本は営業係数がワーストワンとされた芸備線の備後庄原~備中神代間について改正地域交通活性化再生法に基づく再構築協議を申請。2024年3月26日に第1回の芸備線再構築協議会が開催され、その存廃の行方に注目が集まっている。堀内氏は、

「JRは赤字ローカル線を排除し、切り離したいことが本音」

という。つまり、

「JR西日本のような完全民営化された会社の使命は利益の追求と株主への配当で、地域によっては公共交通機関の使命を放棄している路線すら見られる。全国での取材を通じて、収支しか見ないJRと鉄路を守りたい自治体、住民との乖離(かいり)がはっきりわかった」

と話している。