飛騨高山は「舞台あれど役者おらず」…朝市の出店者は歯抜け、地元の祭り継続も手探り状態【インバウンドに翻奔される地方都市の今】

AI要約

高山市はインバウンドによる観光産業回復の一途にあるが、地元経済には影響しきれていない現実がある。

地元の朝市や商店街では後継者不足や閉店が目立ち、高山祭も継続が不透明な状況にある。

コロナ前は外国人観光客で賑わっていたが、地元の人手不足や恩恵不均衡が深刻化していた。

飛騨高山は「舞台あれど役者おらず」…朝市の出店者は歯抜け、地元の祭り継続も手探り状態【インバウンドに翻奔される地方都市の今】

【インバウンドに翻奔される地方都市の今】#1

 インバウンドでますます活気づく地域がある一方で、表面上の賑わいとは裏腹に、地元民の豊かさにつながっていないという現実がある。地方の町や村では以前から後継者不足が潜在していたが、インバウンドで人手不足が加速した。新型コロナ禍を経て体力のない地元事業者の寿命は縮まり、廃業跡地は外からの資本の草刈り場となっていく。地方観光地インバウンドの最前線を、「飛騨高山」で知られる岐阜県高山市から4回連載でリポートする。

 コロナ禍が明けた高山市は今、観光産業回復の一途にある。2023年には45万人の外国人が市内に宿泊し、19年に記録した61万人の約7割にまで回復した。「昨年の9月から急速に訪日客が増えています」と観光事業者も期待を口にするが、その高山市はコロナ前と何かが違う。

 筆者はコロナの前・中・後と、複数回にわたり飛騨高山を訪れている。大きな変化は「日本三大朝市」に数えられる宮川朝市だ。今回は6月の土曜日午前に訪れたが、出店者は歯抜け状態だった。コロナ前は路上に隙間なく出店者が並び、道も人で埋め尽くされていたものだった。

 6月は例年客数が落ちるというが、近隣在住の主婦は「出店者もみんな年を取ってしまった。後継者もいないし」と話していた。

 高山市街地の中心を流れる宮川の南部に位置する商店街では、シャッターを下ろす店が目に付いた。

 この商店街エリアは観光コースにもなっており、コロナ前は昼夜ともに観光客で賑わっていたものだが、最近では「早々に店じまいするところも多い」(地元事業者)。

 世界から多くの観光客を集める、春と秋の高山祭も変わりつつある。特に春の祭りは、見どころとなる「山車」の引き手不足に加え、町内会への費用負担が重くのしかかることが懸案だった。コロナ前からインバウンド需要を狙う市外からの参入が続いているが、事業者数は増えて活気づいても、文化財にも指定される地元の祭りの継続は手探り状態だ。

 コロナ禍前、高山市街地は外国人観光客で大賑わいだった。その観光市場に多くの宿泊施設が参入し、コロナ直前の19年時点で高山市街地の人材争奪はすでに過熱していた。「オープンしたはいいが働き手はいない、客を案内できる部屋は全体の半数だけ」……その影響は深刻だった。

 実は当時から、インバウンドがもたらしていたのは「表面上の賑わい」であり、地元市民が恩恵を感じる状況にはなっていなかった。 (つづく)

(姫田小夏/ジャーナリスト)