”この海は誰のものなのか?”、島民一致の取り組みで世界有数の海を守るパラオの島

AI要約

パラオは1990年代に乱獲が進んでいたが、ハトホベイ島の住民が共同所有を宣言し、環礁の管理を改善した。

ハトホベイ島出身者や国際団体が資金を調達し、ヘレン環礁資源管理プログラムを立ち上げ、保護区に指定された。

パラオは最大規模の海洋保護区を設定し、自然資源の採取活動から海を保護している。

”この海は誰のものなのか?”、島民一致の取り組みで世界有数の海を守るパラオの島

 340以上の島や環礁から成るパラオは、1800年代末からスペイン、ドイツ、日本、米国と、次々と外国に占領され、支配されてきたが、1994年に独立を果たした。だが、1990年代になると、インドネシアやフィリピンから漁船が来て、ダイナマイトやシアン化合物、大きな網を使って、サンゴ礁からナマコ、巻き貝やシャコガイ、サメやハタ、ウミガメなどを手当たり次第に捕っていった。

 パラオ諸島南西部のヘレン環礁を守ってきたハトホベイ島の住民は2人の米国人科学者の助けを借りて、太平洋のほかの島々の住民たちに相談し、彼らが乱獲にどう対処しているのか教えてもらった。だがまず、「この環礁の所有者は誰なのか?」という問いに答えを出す必要があった。そのため、1999年にハトホベイ島のすべての家族が一堂に会し、公開会議が重ねられた。

 さまざまな検討を経た結果、ハトホベイの島民が共同で所有するということで意見が一致した。共同所有という画期的な宣言のおかげで、ヘレン環礁は未来の争い事から解放され、ハトホベイの島民全員の利益となるような管理が可能になった。

 2000年、ハトホベイ島出身者、それ以外のパラオ人、国際団体が一丸となって、国と民間から資金を調達し、ヘレン環礁資源管理プログラムを立ち上げた。翌年には、ヘレン環礁を保護区に指定する法律が、ハトホベイ州議会を通過した。

 それにより、最初の4年間は、ヘレン環礁における海洋生物の捕獲が禁じられた。環礁が回復すると、その約3割が島民による持続可能な漁業を対象として開放された。

 ハトホベイ島の人々は、「昔から彼らの間で受け継がれてきた生態学的な知識を、極めて賢明に生かしています」と、米カリフォルニア大学サンディエゴ校の海洋生物学者スチュアート・サンディンも話す。サンディンは、この地域にカンムリブダイやタマカイの個体群がたくさんいることに触れ、「乱獲の激しい海域ではまず見られない魚です」と話す。

 またサンゴの回復力も見事だという。調査チームが一定の時間の間隔を空けて撮影した一連の画像を見比べると、この環礁のサンゴは、大波や白化現象などで生態系のバランスがかなり乱れた後に、「猛烈な勢いで」回復していたことがわかった。「これも管理の行き届いた海域に共通する特徴です」と話す。

 パラオの保護対策は、2020年に発効された国立海洋保護区の創設によってさらに進展した。この世界最大規模の海洋保護区は、パラオの排他的経済水域(EEZ)の8割に当たる47万7000平方キロ以上の西太平洋の海を、採掘や漁業を含む天然資源の採取活動から守っている。

 パラオの海洋生物の多様性は、ミクロネシア全域のなかでも最高レベルを誇る。生息する硬質サンゴ、軟質サンゴ、海綿は数百種にのぼり、サンゴ礁にすむ魚は1300種を超え、マグロやカジキ、サメやエイも豊富に存在する。

 パラオでは昔から、サンゴ礁の特定の海域や、1年の特定の時期に漁を制限することで、資源の回復を図ってきた。その漁業習慣に根ざした倫理観が、保護ネットワーク基金と海洋保護区でも共有されている。

※ナショナル ジオグラフィック日本版「生命輝くサンゴの海を未来へ、パラオ」より抜粋。