奈良県立大、寄贈の植物標本誤廃棄 採集不能・絶滅危惧種も

AI要約

奈良植物研究会の岩田重夫会長が採集した植物標本「岩田コレクション」がひどい運命を辿った。

標本には県の絶滅危惧種や採取困難な植物が含まれ、2001年に県に寄贈されたが、昨年秋に全て廃棄された。

事件の経緯や植物学への影響により、同研究会は県に対して厳しい指摘と要望を行った。

奈良県立大、寄贈の植物標本誤廃棄 採集不能・絶滅危惧種も

 奈良植物研究会の会長を務めた岩田重夫さん(1916~88年)が採集し、2001年に県に寄贈された植物標本「岩田コレクション」(約1万点)が、保管先の県立大学(奈良市)によって昨年秋に全て廃棄されていたことが分かった。標本には県の絶滅危惧種や今では採取できない植物も含まれる。22日、同研究会の松井淳会長(奈良教育大学自然環境教育センター特任教授)らが県庁で記者会見し、「日本の植物学における大きな損失であり、県民の財産の損失」と指摘、廃棄の経緯や今後の対応をただす要望書を県に提出した。

 岩田コレクションは岩田さんが1950(昭和25)年から87(昭和62)年にかけて県内で採集した植物標本。ミヤマホツツジ(天川村の稲村ケ岳、65年採集)など岩田コレクションでのみ確認できた植物や現在では個体数が少なく採集できない植物も含まれていた。

 同研究会によると、自然博物館の設立に向けて県と折衝を続ける中で、標本の受贈について基本的な考え方が示され、99年に「岩田コレクション」の寄贈を決定、翌年からラベルを作成するなど整理を進め、2001年に「県立自然博物館をつくる会」(菅沼孝之会長、現在解散)を通して県に寄贈した。

 その際に県知事と交わした覚書では、県が現状のまま保管・管理すると記されていた。

 会員らが県立大の標本庫に搬入し、採集地別に新聞紙に挟まれた標本をロッカーに収めたほか、09~10年には標本の再点検も行った。

 今年3月、同研究会の松井会長が大学を訪れ、廃棄されたことが判明。県立大によると、標本庫の建物を解体することになり、総務課の職員が色あせた新聞紙に挟まれた標本を貴重と思わず、産業廃棄物としてロッカーごと処分したという。

 尾久土正己学長は「組織としての責任」と陳謝。「将来の研究で新たな発見があるかもしれない資料を誤廃棄した。喪失の重みを感じる」と頭を下げた。

 松井会長は「守るべき価値のため会員がみんなで努力した。それが受け止められず残念。県の自然環境や自然資産に対する認識や姿勢が厳しく問われなければならない」としている。