くじ引き選出の市民で温暖化対策提言 「杉並区気候区民会議」に見るシン・民主主義

AI要約

東京都杉並区で行われている「気候区民会議」は、地球温暖化対策を市民が主体となって考える取り組みであり、無作為抽出した市民が熟議して政策提言を行っている。

会議では、「歩いて10分で森林浴できる杉並区」や自転車利用促進策など具体的な提案が行われており、参加者は各層の区民がバランスよく選ばれている。

このような「ミニ・パブリックス」の手法は、欧米を中心に導入されており、近年日本でも各自治体で気候変動対策を含む意見交換会が増えている。

くじ引き選出の市民で温暖化対策提言 「杉並区気候区民会議」に見るシン・民主主義

約57.6万人の人口を抱える東京都杉並区で、市民が主体となって地球温暖化対策を考える「気候区民会議」がおこなわれています。無作為抽出によって選ばれた市民が、熟議して政策を提言する「ミニ・パブリックス」。全国各地でじわじわと取り入れる自治体が増えているこの政治手法は、どんなものなのでしょうか。6月8日に行われた第4回会議の様子をリポートします。(ライター・小泉耕平)

「私たちは区民が質の高い緑を享受できることを目標に、『歩いて10分で森林浴できる杉並区』というキャッチフレーズを立てました。『歩いて10分』というのは、客観的な指標にすることができます」

「杉並区民の1日あたりの自転車の平均利用時間は23区トップの9.8分。これを15分に増やすために、沿道の緑を増やして木陰をつくって、日焼け止めクリームを塗らなくても自転車に乗れるようにします。ウォーターサーバーや駐輪所の数も増やします」

6月8日、杉並区役所本庁舎の大会議室では、区の気候変動対策について熱のこもった提案が行われていました。地球温暖化について区民自身が対策を考える「気候区民会議」が行われていたのです。

集まっているのは地元区議や専門家……ではなく、年齢層も様々な一般区民たち。堂々としたプレゼンを披露するベテラン会社員ふうの人物もいれば、高校の制服を着た10代の参加者もいます。

杉並区が主催する「気候区民会議」は、2024年3月からおよそ月1回のペースで開催されていて、今回が全6回のうちの4回目。

メンバーは、16歳以上の区民から無作為抽出した5千人に募集案内を送り、応募してきた199人の中から年齢層、性別、住所のバランスを考慮して選ばれた77人(区側で80人を選出し、3人は決定通知後に辞退)です。男女比はほぼ半々で、年齢は10代から70代までが実際の区民の人口構成に近い比率で選ばれています。

市民から無作為抽出などで「社会の縮図」となる参加者を集め、政策決定などを行う「ミニ・パブリックス」の手法は、欧米を中心に1970年代から取り入れられてきました。無作為抽出という特徴から、「くじ引き民主主義」とも呼ばれています。

近年はこの手法を使って地球温暖化対策を話し合う「気候市民会議」が世界各国で開催されており、フランスでは2021年、国レベルで開催された気候市民会議の提案に基づいて、鉄道で代替可能な近距離国内フライトの禁止などが盛り込まれた法律が成立しました。あくまで国会での審議を経てのことですが、国の制度にも影響を与える政策が市民発で実現しているのです。

国内でも2020~21年にかけて札幌市と川崎市で開催されたのを皮切りに、全国10以上の地方自治体で開催され、提言が政策に反映されるケースも出てきています。

東京都日野市は、2023年に実施された気候市民会議の提言を受け、今年度から市の公共施設に実質再生可能エネルギー100%の電力を導入すると発表しました。

杉並区での開催は岸本聡子区長が2022年の区長選で公約として掲げていたもので、東京23区としては江戸川区に続く2例目です。区環境部の有坂直子・温暖化対策担当課長はこう説明します。

「区民に対しては気候変動問題の現状を理解して自分ごととして行動変容につなげていただきたいという思いがあるのと同時に、区としては区民の目線による地域に合わせた意見や提案を得ることができます。それを政策にいかしていくことには大きな意味があると考えています」