人も生き物も喜ぶ森づくり、どうする? 市民団体が取り組む針葉樹と広葉樹の混交林の実践

AI要約

福岡県八女市で開催された「森林と市民を結ぶ全国の集い2024」のフィールドセッションでは、森林の保護と育成に市民がどう関わるかについて議論が行われた。

実践報告では、八女市、神奈川県、福岡市の団体がそれぞれ異なる取り組みを紹介し、森林の多様性や生物の宝庫としての重要性を強調した。

専門家は、里山林において人の手が介入して生物多様性が危うくなる可能性も指摘し、森づくりに市民が関与する文化事業の重要性を強調した。

人も生き物も喜ぶ森づくり、どうする? 市民団体が取り組む針葉樹と広葉樹の混交林の実践

 人も生き物も喜ぶ森をつくるには-をテーマに「森林と市民を結ぶ全国の集い2024」のフィールドセッションが、福岡県八女市黒木町で開かれた。豊かな森林を守り育てるために市民はどう関わればよいのか。全国の学生を含む約40人が議論に耳を傾けた。 (特別編集委員・長谷川彰)

 NPO法人「森づくりフォーラム」(事務局・東京)などが主催。木材生産地としての持続可能性にとどまらず、多種多様な生き物のすみか=生物多様性の宝庫という視点も踏まえ、6月1、2両日、スギ、ヒノキの人工林と広葉樹の混交を意識した取り組みを進めている地元の八女、神奈川県、福岡市の3団体による実践報告が行われた。

 初日は、八女市のNPO法人「山村塾」が携わる「パッチワークの森づくり」の現場を見学した。1991年の台風19号で風倒木被害に遭った山を再生するに当たり、93年からケヤキ、コナラやヤマザクラなどを植え、針葉樹と広葉樹がパッチワークのように入り交じる森を目指す試み。

 山村塾の小森耕太さんは、この30年に渡る活動を振り返り「樹種によって、植樹したもの、自然に生えてきたものも含め、うまく育ったり育たなかったり」。九州大緑地保全学研究室の朝広和夫教授に科学的な評価を仰ぎながら「ボランティア団体の活動レベルで、経済的、環境的に健全な状態にできるか模索を続けている」と話した。

 針広混交林づくりの試みが続く山中の現場を見学する、集いの参加者たち=6月1日、福岡県八女市黒木町

 2日目の実践報告では、相模原市にある国有林の一部の管理を97年から市民活動で引き受けているプロジェクト「フォレスト21“さがみの森”」の坂場光雄さんが取り組みを紹介。

 現在は約20ヘクタールを管理。スギ、ヒノキだけでなく、コナラなど広葉樹を植えて混交林化を進めた。防風などのため尾根に残された保護樹帯から飛散してきた広葉樹の種子の寄与も大きいとみられるそうだ。

 専門家の調査で森林に生息する生物種の増加が確かめられたといい、「自然の営みに人の手が加わり、森にかく乱が起こることで多様性が高まる」と述べた。

 また、福岡市民に親しまれている油山で活動する「油山自然観察の森 森を育てる会」の鎌田隆さんが95年からの歩みを報告。約140ヘクタールに及ぶ「油山市民の森」の中の「カブトムシの森」と「アカマツ林」の計約1・3ヘクタールの保全に取り組んでいるという。

 カブトムシの森では、クヌギやコナラなどを植え、下草刈りや間伐などを進めてきた。アカマツ林では、福岡県内に残る群落が現在は油山のみということで、保全に尽力している。

 「子どもたちに身近な自然とふれあえる森を残す活動が50年、100年と続けられるよう、一緒に活動する仲間になってほしい」と呼びかけた。

 コーディネーターを務めた九大の朝広教授は「森林は長い年月をかけた植生の遷移を経てつくられる。植物種の構成は徐々に変わっていくが、私たちに身近な里山林ではその恵みを得るために人の手が入り、生き物の多様性を危うくさせる場合もある」と説明。戦後のスギ、ヒノキに特化した造林もその一つかもしれないとして「暮らしの中で、森づくり、生き物の多様性を今後どう取り戻していくのか、地球温暖化という視点も含め、問い直されているのだろう」と指摘した。

 国有林であれ私有林であれ、第三者が直接関われない状況がある中、森づくりの市民ボランティアについて「関係者が話し合いながら、文化事業として関与できる接点をつくることが重要だ」と強調した。