G7、石炭火力発電廃止期限で初合意 宣言表現に「抜け道」も

AI要約

イタリア南部プーリア州でのG7サミットでは、2030年代前半に段階的に石炭火力発電を廃止することが初めて首脳宣言に盛り込まれた。しかし、具体的な気候変動対策については模糊さが残る表現となっている。

G7首脳は、既存の石炭火力を廃止する年限を示唆しつつも、廃止時期について幅広い解釈を許容する内容を採用した。また、温室効果ガス排出削減目標についても課題を抱えている。

国際的に求められている石炭火力の廃止年限に比べると、今回の協定は遅れているとの指摘があり、依然として気候変動対策の不確実性が残る状況である。

G7、石炭火力発電廃止期限で初合意 宣言表現に「抜け道」も

 イタリア南部プーリア州での主要7カ国首脳会議(G7サミット)は、二酸化炭素(CO2)排出削減対策が講じられていない石炭火力発電を2030年代前半に段階的に廃止することを初めて首脳宣言に盛り込んだ。ただし首脳宣言の表現には「抜け道」もあり、気候変動対策を大きく加速させるような内容には踏み込まなかった。

 首脳宣言は、4月のG7気候・エネルギー・環境相会合での合意を踏まえ、排出削減対策が講じられていない既存の石炭火力を30年代前半に段階的に廃止するとした。「世界の平均気温の上昇幅を産業革命前から1・5度に抑えることと整合する時間軸で」という年限に解釈の幅を持たせる表現も併記した。

 また、各国は35年までの温室効果ガス排出削減目標を25年までに国連に提出することが推奨されているが、首脳宣言では「1・5度(に抑える目標)と整合的な目標を提出することを約束する」と明記した。世界最大のCO2排出国・中国などを含む主要経済国にも、G7と同様の目標設定を求めるとした。

 日本は全発電量に占める石炭火力の割合が22年度で30・8%と依存度が高い。現行のエネルギー基本計画では30年度時点でも総発電量の19%を石炭でまかなう計画だ。これまでもG7では石炭火力の廃止年限が議論されてきたが、国内で廃止時期を決めていない日本などの反対で合意が見送られてきた。

 米国では11月に大統領選があり、仮に気候変動対策やG7の枠組みに否定的だったトランプ前大統領が再選されれば、G7としての対策が停滞しかねないという危機感もある中、ようやく首脳宣言に廃止年限が盛り込まれた。だが、国際エネルギー機関(IEA)によると、「1・5度目標」の実現には先進国では石炭火力を30年までに廃止する必要がある。

 ◇「表現の定義曖昧」 WWFジャパンの山岸尚之氏

 世界自然保護基金(WWF)ジャパンの山岸尚之・自然保護室長は「(IEAの分析など)国際的に求められている廃止年限を考えると、今回の合意(30年代前半)でも遅い。首脳宣言の中では『排出削減対策が取られていない』という表現の定義も曖昧で、抜け道が用意されており、(脱炭素実現に向けて)心もとない内容だ」と指摘する。

 国際社会では石炭だけでなく、天然ガスを含む全ての化石燃料の利用を止める必要性が強調されるようになっている。23年の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)では「化石燃料からの脱却」に合意した。

 日本では今年5月、国のエネルギー政策の中長期の方向性を示す「エネルギー基本計画」の改定に向けた議論が始まり、石炭火力の扱いなどが焦点になっている。首脳宣言では廃止年限などに解釈の幅を持たせているが、こうした表現を「言い訳」に化石燃料依存を続けることには、これまで以上に国際社会から厳しい目が注がれることになる。【山口智】