日本から国籍変更→五輪出場で一躍有名人「英国のBBCも…」 46歳のカンボジア人として陸上界に捧ぐ“猫の恩返し”――マラソン・猫ひろし

AI要約

猫ひろしがカンボジア代表としてオリンピアンとなり、その後の生活や成長を追った内容。

カンボジアでの生活やランニングの経験、周囲の人々との交流について。

オリンピック出場を通じて猫ひろしが得た成長や満足感、新たな目標について。

日本から国籍変更→五輪出場で一躍有名人「英国のBBCも…」 46歳のカンボジア人として陸上界に捧ぐ“猫の恩返し”――マラソン・猫ひろし

 スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、大のスポーツファンも、4年に一度だけスポーツを観る人も、五輪をもっと楽しみ、もっと学べる“見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値が社会に根付き、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

 五輪はこれまで数々の名場面を生んできた。日本人の記憶に今も深く刻まれるメダル獲得の瞬間や名言の主人公となったアスリートたちは、その後どのようなキャリアを歩んできたのか。連載「あのオリンピック選手は今」第8回はマラソン・猫ひろしが登場する。

 オリンピックは終わってからが大事――。2016年のリオデジャネイロ五輪、男子マラソンにカンボジア代表として出場してオリンピアンとなった芸人ランナー、猫ひろしは国籍を戻すことなくカンボジアと日本を股にかけ、芸人とランナーを両立している。40代なかばになって自己ベストをさらに更新し、運動生理学を学ぶべく順天堂大大学院にも進学。カンボジアへの“猫の恩返し”を考えているともいう。後編は、リオ大会後の日々と今の彼を追った。(前後編の後編、取材・文=二宮 寿朗)

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 リオデジャネイロオリンピックに出場した反響は思った以上だった。

 カンボジア選手団みんなで帰国すると、猫ひろしはちょっとした有名人になっていた。感動のゴールシーンをカンボジアの人たちもテレビで観てくれていたのだ。

「カンボジアってケーブルテレビが凄くて、100チャンネルくらいあるんです。イギリスのBBCだったか忘れましたけど、あの最後の盛り上がりを取り上げてくれたところがあって。いろんな方から『ありがとう』と言ってもらえたのはうれしかったですね」

 オリンピック出場枠を争った陸上選手から感謝の言葉を告げられ、トゥクトゥクの馴染みのドライバーからはビールをごちそうされ、いつも不愛想なサウナの店員からペットボトルの水をサービスされた。定宿近くのクリーニング店の店主から「テレビ観たぞ」と言われてクリーニング代がタダになっている。

 スポーツって凄い、オリンピックって凄い。カンボジアの人たちが、自分を真に認めてくれた気がした。気がつけばカンボジアでも多くの仲間ができていた。

 思えば、カンボジアに来た当初はいつも一人で走っていた。

 最初は日中を走っていたが、ほかのランナーは誰もいなかった。高温多湿の環境のため、早朝か夕方にみんな走っていたことが分かるとカンボジアの選手とも時折、一緒に走るようになった。打ち解けると「ネコ」と呼ばれた。

 大変なことと言えば野犬が多く、追いかけられることだ。自転車の伴走担当が追い払う役目を担うのだが、カンボジアにやってきた後輩芸人(魔法使い太郎ちゃん)に一度頼んだことがあった。

「あの人、犬を見つけた瞬間に『おー、やばいー』と叫びながら逃げちゃったんですよ。僕の足を自転車でひいて、追い払いもせずに。大会に出られなかったらどうしてくれるんだと思いましたけど、僕も何とか逃げ切りました」

 ハプニングはありつつもカンボジアの環境に溶け込み、彼はマラソンランナーとして成長していった。