科学の教え、よく眠れずに体調が悪い時は「休んだほうがお得」 無理して仕事がダメな理由

AI要約

体調不良で会社を休むより、頑張って出勤して仕事を片付ける。

プレゼンティーイズムや睡眠問題による労働生産性の低下が問題となっている。

過労や睡眠不足が産業事故や交通事故を引き起こす可能性があることが広く認知されている。

1993年に米国睡眠障害調査研究委員会が「Wake Up America(目覚めよ、アメリカ)」という報告書を発表し、睡眠問題の深刻さをアピールした。

睡眠不足や睡眠障害によるヒューマンエラーが大規模事故の背景にある可能性が指摘されている。

睡眠障害の専門医療機関の設立や睡眠と休養の重要性についての議論が広がった。

日本でも睡眠問題が労働法や働き方改革関連法で取り上げられ、その影響が注目されている。

睡眠問題は経済的損失から学業不振、健康リスク、交通事故、労働生産性の低下に至るまで幅広い影響を持つことが示されている。

睡眠問題が解決されることで社会全体の健康と安全が向上する可能性がある。

科学の教え、よく眠れずに体調が悪い時は「休んだほうがお得」 無理して仕事がダメな理由

 体調不良で会社を休むより、頑張って出勤して仕事を片付ける。

 一見美徳に思える働き方が実は労働生産性を落としている。いわゆる「プレゼンティーイズム」である。睡眠問題に悩む労働者も例外ではない。睡眠問題で体調が悪くなっても労働者本人は「休む理由にはならない」と深刻に受け止めず、それだけに長期に続き、悪影響も大きくなりがちだ。

 睡眠不足や睡眠障害が労働生産性の低下や産業事故の発生に深く関わっていることは今では広く認知されているが、この問題を多くの人々に周知せしめた金字塔的レポートがある。1993年に米国睡眠障害調査研究委員会が米国議会で報告した「Wake Up America(目覚めよ、アメリカ)」がそれである。

 その少し前に、スペースシャトル・チャレンジャー号爆発事故(1986年)やスリーマイル島原子力発電所事故(1979年)が米国民に大きな衝撃を与えていた。また交通事故死が年間7万人以上に達していた。それらの背景に、管理者や作業者、運転手の睡眠不足や睡眠障害による眠気や認知機能の低下、疲労の蓄積が深く関連していることを指摘した報告書だ。

 睡眠問題によるヒューマンエラーの関係は大きな産業事故や交通事故に限らず、軽度のものから深刻なものまで幅広い業態に及ぶ。この議会レポートの公開を機に、労働者の睡眠と休養の在り方が論議されるようになり、専門医療機関として睡眠障害の治療センターが全米に数多く設立された。

 日本でも自動車運転処罰法(2013年)や働き方改革関連法(2018年)で睡眠問題が認知機能や健康に及ぼす影響が深く論議された。

 2016年には、有名なシンクタンクである米国のランド研究所がアメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、および日本を対象に睡眠問題による社会資本ロスを試算している(「Why sleep matters ― the economic costs of insufficient sleep: A cross-country comparative analysis」(RAND Corporation))。ちなみに報告書のタイトルには「insufficient sleep(通常の和訳で睡眠不足)」とあるが、この研究では睡眠不足だけではなく、不眠症や睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシー(過眠症の一種)などの睡眠障害のほか、交替勤務(夜勤)など生活スケジュールの異常まで、多くの睡眠問題を分析に組み込んでいる。

 その結果、これら睡眠問題は子どもの学業不振に始まり、労働生産性の低下、交通事故や産業事故の増加、がんや循環器疾患をはじめとするさまざまな疾患の発症と、その医療費の増大などと強い関連があり、いずれの国においても経済損失は膨大になることが明らかになった。