認知症の「軽症リハ」で、昼夜逆転の生活リズムを戻すこと重要なのはなぜか【正解のリハビリ、最善の介護】

AI要約

認知症を発症後、軽症の段階で介入して、認知機能向上リハビリを行うことで、できる能力を向上させ、進行を遅らせることが重要。

軽症の認知症患者に対して軽症リハを行い、入所期間中に生活に困らない程度の能力を向上させ、自宅に復帰させる取り組みが行われている。

日中は覚醒した生活リズムを保つことで、睡眠障害や昼夜逆転を改善し、認知症の症状を回復させることが可能である。

認知症の「軽症リハ」で、昼夜逆転の生活リズムを戻すこと重要なのはなぜか【正解のリハビリ、最善の介護】

【正解のリハビリ、最善の介護】#41

 認知症を発症後、軽症の段階で介入して、できる限り進行を遅らせ、“できる能力”を向上させる認知機能向上リハビリが「軽症リハ」です。

 私が院長を務める、ねりま健育会病院に設置している「介護老人保健施設(老健)」では、入所された軽症の認知症患者さんに対し、在宅復帰に向けた軽症リハを行います。基本的には予防リハと同じく、筋力と体力の維持・向上のための身体トレーニング、楽しめる学習トレーニング、コミュニケーションを図る取り組みを行いながら、日常生活で困らないようにするためのリハビリです。

 老健の入所期間は、原則として3カ月に設定されています。その間に軽症リハを実施して、生活に困らないくらいまで“できる能力”を向上させ、自宅にお戻しするのです。

 現在、ほとんどの老健は、介護の合間に患者さんを3カ月入所させ、自宅に戻って、また3カ月たったら再び入所させる「3カ月リピートのお預かり施設」になっているのが実情です。もちろん、介護している家族が潰れてしまわないように、一時的な“避難所”として利用することにはとても意義があり、家族からのSOSがあれば、それを救うサポートをすることが極めて大切です。

 当院では、軽症の認知症患者さんが入所してリハビリに取り組んだことで認知症の症状が回復し、自宅に戻ってからも楽しく暮らせるようになり、当院に再び戻ってくることはなくなるケースもたくさんあります。

■症状がほぼ改善して自宅に戻るケースも

 認知症が軽症の段階で、介護する家族がいちばん困るのは、「夜に眠らなくなる」ことです。認知症では睡眠障害が起こるケースが多く見られます。加齢により浅い眠りの割合が増えて中途覚醒が多くなったり、認知機能の低下で日中の外出の機会が減るなど活動量が低下することで昼寝をする時間が増え、夜に眠れなくなるのです。

 そうなると、夜に動き回って転倒したり、外を徘徊するなどトラブルのリスクがアップします。通常であれば就寝している時間ですから、介護する家族の負担が増大し“ギブアップ”につながってしまうのです。

 そのため当院では、冒頭で触れた軽症リハと並行して、「昼間は起きて、夜は眠る」という本来の生活リズムを取り戻す取り組みを行います。朝起床してから、夜に就寝するまではベッドに寝かせないようにして、リハビリや食事の時間も含めて日中は覚醒した生活リズムを保つのです。

「昼間は起きて、夜は眠る」という本来の生活リズムを取り戻すと、身体機能が活発になり、脳が刺激を受け、筋力や体力も向上して人間力が回復していきます。適切な睡眠と3食しっかり食事をするという生活リズムを整えるだけで、認知症の症状がほぼ改善して、そのまま自宅に戻って問題なく日常生活を送れる患者さんもいます。

 医学的なリハビリに関する知識がない多くの一般の方は、なぜ認知症の症状が回復して元に戻ったのかわからない場合がほとんどです。ですから、軽症リハによって救われたという家族はたくさんいらっしゃいます。

 日中は覚醒させて、生活リズムを整える対策を大切にする軽症リハは、入所している期間だけでなく、外来や通所、理学療法士や作業療法士が訪問して行うケースもあります。

 気持ちのいい生活リズムで活動することは、認知症の進行を遅らせ、日常生活で困らないように本人の“できる能力”も向上させることで、介護する家族の負担も減らすことができるのです。

(酒向正春/ねりま健育会病院院長)