深夜ラーメンはなぜ最悪?体内時計の狂いが老化の原因に…起床後12時間以降の食事が全て「毒」になる科学的理由

AI要約

体内時計に関する研究を行う吉種光氏が、24時間周期の体内時計の重要性について語る。

進化の過程で24時間リズムの生物が生き残るために体内時計が進化した仕組みを解説。

シアノバクテリアを使った実験で概日リズムが生存に与える影響が明らかになり、24時間周期が生存に有利であることが示唆された。

 既存の学問領域にとらわれない研究を推進するフォーラム「Scienc-ome」に集う研究者が未来を語る連載。今回は、誰もが持っている「体内時計(circadian clock=概日時計)」に着目する。

 人体には概ね1日24時間の周期でリズムを刻む体内時計が備わっている。体内時計のメカニズムは長年研究されてきているが、なぜ24時間を正確に計測できるのかはまだわかっていない。

 その謎に挑んでいるのが、東京都医学総合研究所で体内時計プロジェクトのプロジェクトリーダーを務める吉種光氏だ。吉種氏は2021年、新たな研究領域「時間タンパク質学」を立ち上げた。時を生み出す分子メカニズムとして特定のタンパク質に着目して研究を進めている。

 体内時計が狂うと健康や老化にも影響する。吉種氏は、起床して12時間以降の食事は「毒」になると指摘する。例えば、深夜ラーメンは昼ラーメンより数倍、体へのダメージが大きいという。いったい、どういうことか? 

 体内時計の仕組みから、健康や老化に与える影響まで、順を追って解説していく。

■ 進化の過程で24時間リズムの生き物が生き残った

 ヒトは夜になると眠り、朝が来ると目を覚ます。ネズミなどの夜行性動物は逆に、夜になると動き出し朝には眠りにつく。いずれにしても生物は、地球の自転周期24時間に同調して、ほぼ24時間で体内環境を循環させる機能を持つ。

 この約24時間周期のリズムは「概日リズム(サーカディアンリズム:circadian rhythm)」と呼ばれ、生物の体内には1日の周期でリズムを刻む体内時計が備わっている。なぜ、このような時計が備わっているのか。

 この問いに東京都医学総合研究所で体内時計プロジェクトのプロジェクトリーダーを務める吉種光氏は「進化上、有利だったからでしょう」と答えた。

 「たとえば光合成と窒素固定を行うシアノバクテリアの場合、この2つの反応を同時進行させるのは得策とはいえません。光合成によって生成される酸素が窒素固定に必要な酵素を阻害してしまう。だから大雑把にでも、光の当たる12時間ぐらいで光合成を行い、それ以外の時間は窒素固定としたほうが生存上有利です」

 確かに光合成に太陽光を必要とする植物ならそうだろうが、動物も同様なのだろうか。

 「動物の場合は、血糖値やATP(アデノシン三リン酸)を一定に保つ必要があります。だから食事をできる、つまりグルコースを補充できる時間帯には、肝臓にためたグリコーゲンをグルコースに変えてどんどん使えばいい。逆にグルコースを補充できない、すなわち食事をできない時間帯には、グルコースをグリコーゲンとして蓄えたほうがいい」

 「このグリコーゲン→グルコースと、グルコース→グリコーゲンは真逆の反応です。だから反応を起こす時間帯を分けておかないと、アクセルとブレーキを同時に踏むような状況になってしまって極めて不合理です。つまり動物も植物も地球の24時間周期に対応したほうが有利で生存確率が高まる。だから結果的に生き残った生物は、概日リズムを持っていると考えられます」

 シアノバクテリアを使った興味深い実験結果がある。シアノバクテリアの遺伝子を改変し、概日リズムを22時間周期に変えたミュータントを作った。これを12時間は明るく12時間暗くしたボックスの中で飼育し、遺伝子を改変していないワイルドタイプと比較したところ、24時間周期のワイルドタイプは生き残ったけれども、22時間周期に改変されたミュータントは死んでいった。

 「ところがボックスの明暗周期を変えて22時間とし、11時間を明るくし次の11時間を暗くすると、今度はミュータントが生き残り、ワイルドタイプが死んでしまったのです」

 仮に今後、地球の自転周期が36時間になれば、それに対応するよう進化した生物が生き残るのかもしれない。