人生100年時代にこそ考える「老化のメカニズム」

AI要約

知恵を得た人類は野生動物と異なり、自らの手で寿命を延ばしてきた。そして今、私たちは「老いを生きる時代」を迎えている。

人類は老化のメカニズムを解明し、健康長寿を切り開く道に挑んでいる。細胞老化と加齢の関係、老化細胞の蓄積、SASP現象について解説されている。

老化細胞はアポトーシスと違い生存可能であり、体内に蓄積することで老化を促進する。老化細胞は「ゾンビ細胞」とも呼ばれている。

人生100年時代にこそ考える「老化のメカニズム」

知恵を得た人類は野生動物と異なり、自らの手で寿命を延ばしてきた。そして今、私たちは「老いを生きる時代」を迎えている。

では、歳を重ねることに伴う老化は、なぜ起きるのか。人類はその仕組みの解明にも挑んでいる。

新刊『老化と寿命の謎』では、健康長寿を切り開く道につながるともいえる、老化のメカニズム研究の最前線に迫る。

*本記事は飯島裕一『老化と寿命の謎』から抜粋・再編集したものです。

私たちの体細胞の多くは、分裂をくりかえしながら増殖している。だが、DNAの損傷、がん遺伝子の活性化などで発がんの危険性が生じると、「細胞老化」と呼ばれる安全装置によって細胞分裂を元に戻れないように停止させ、がん化を防いでいる。混同・誤解されがちだが、細胞老化は老若ともに起きる現象であって、加齢とは同一の流れにはない。

細胞老化は、アポトーシス(細胞の自殺)とともに、がん抑制作用の側面が注目されてきたが近年、負の作用も指摘され、個体の老化や高齢者の疾患との関連が浮かび上がっている。

一方、細胞老化によって分裂を停止した細胞は、「老化細胞」といわれる。

細胞死を起こすアポトーシスとは異なり、老化細胞は生存可能であり、加齢とともに体内にたまっていく。老化細胞の蓄積について『老化研究をはじめる前に読む本』(高杉征樹著・羊土社)は、「原因ははっきりしていませんが、細胞に生じるストレスの増加、細胞のストレス抵抗性の低下、および免疫細胞による老化細胞の除去機能の低下といった要因が寄与している可能性が示唆されています」と記している。

原英二・大阪大学微生物病研究所教授は、「老化細胞はSASP(サスプ=細胞老化随伴分泌現象、メモ参照)を引き起こす」と解説した。過度のSASPは慢性炎症を誘発し、がんや白内障・動脈硬化症・肺線維症・多発性硬化症など高齢者に多いさまざまな疾患に関わっている(図1)。

*SASP(サスプ=細胞老化随伴分泌現象):細胞老化によって分裂を停止した老化細胞が引き起こす現象。細胞同士のシグナルのやりとりに使われる「炎症性サイトカイン」や「ケモカイン」などのタンパク質の分泌を促進したり、細胞と細胞の間を満たす物質「細胞外マトリックス」を分解する酵素の分泌を増やしたりする。

さらに正常な細胞の細胞老化も引き起こし、身体の老化を促進するとされる。

このように、分裂を停止しているのに死なずに”悪さ”をする老化細胞は、「ゾンビ細胞」とも呼ばれている。