人間には「3つの脳」がある…精神科医が「イライラ、モヤモヤするのはあなたのせいじゃない」と言う理由

AI要約

外部からのストレスや遺伝子型によってネガティブ感情が引き起こされる理由について精神科医の伊藤拓さんの説明を紹介。

脳の進化に関する三位一体脳説とは、爬虫類脳、哺乳類脳、人間脳の3つの脳の構造と機能を説明している。

哺乳類脳は好き嫌いや恐怖などの基本感情を司り、人間脳はさらに高次な働きをする部位である。

仕事へのやる気がなくなったり、周囲にイライラしたりするのはなぜか。精神科医の伊藤拓さんは「外部からのストレスで脳が疲弊している状態だと、身体や感情のコントロールをする脳内物質をバランスよく維持することができなくなる。しかも、遺伝子型によってネガティブ感情になりやすい人と、なりにくい人がいる」という――。

 ※本稿は、伊藤拓『精神科医だけが知っている ネガティブ感情の整理術』(ハーパーコリンズ・ジャパン)の一部を再編集したものです。

■「爬虫類脳」「哺乳類脳」「人間脳」がある

 人間の基本感情の研究は、進化論で有名なダーウィンの研究に端を発すると言われています。ダーウィンは感情を表す表情に着目し、そこにも進化がかかわっていると考えました。そして、彼の唱えた地域や文化の違いを超えた表情の普遍性が、現在の基本的感情論につながっていったようです。

 ここで、脳の進化についても少し考えてみましょう。

 アメリカの生理学者であり臨床精神科医のポール・D・マクリーンは、人の脳には「爬虫類脳」「哺乳類脳」「人間脳」の三層があり、進化の過程でこのような構造になったという「三位一体脳説」を提唱しました。とても有名な説ですから、みなさんの中にもご存じの方はいらっしゃるかもしれません。

 現在は、神経科学や分子遺伝学などの分野で脳の研究がさらに進み、マクリーンの説に否定的な意見も見られます。私たち生物の進化は、これほど単純ではないということでしょう。ただ、学術的な面というよりも、脳の仕組みをより理解しやすいという点もあり、ここでご紹介する意味はあると思っています。

■好き嫌いや恐怖を司るのは哺乳類脳

 では、「三位一体脳説」でいう三層の脳は、それぞれどのような役割を担っているのでしょうか。

 「爬虫類脳」は、脳の中で最も原始的な部分で、生命活動の根幹となる部分にかかわっています。脳の部位で言うと「脳幹」と呼ばれる部分です。たとえば、呼吸や脈拍、体温などを調整する自律神経をコントロールしたり、本能的な反射を起こさせたりします。

 その上にあるのが「哺乳類脳」で、「三位一体脳説」では人だけでなく犬や猫、馬といった哺乳類が持っているとしています。脳の部位では「大脳辺縁系」と呼ばれる部分です。感情や記憶にかかわりがあり、好き嫌い、恐怖といった基本感情のコントロールもこの部分が行っています。

 そして、一番外側にある「人間脳」は、哺乳類脳よりもさらに高次な働きをします。脳の部位では「大脳新皮質」と呼ばれる部分です。論理的に物事を考えたり、理性を持って対処したりできるのも、この人間脳の働きによるものです。