年商10億ドル超のクラシックカーオークション界の雄が挑む新ビジネスとは?|ロブ・マイヤーズにインタビュー

AI要約

ロブ・マイヤーズはRMオークションズとレストアビジネスの創設者であり、現在はマイアミでコンクールの主催者を務める。彼のキャリアや車への情熱、新たなイベント事業に対する取り組みなどが紹介されている。

マイヤーズは車好きな父親の影響を受け、ガレージでの作業から車のレストア事業へと進化してきた。徐々にビジネスを拡大し、クラシックカーの世界で成功を収めてきた。

彼は新たにイベント事業に取り組み、マイアミでクラシックカーの祭典「モーダマイアミ」を開催。独自路線を築き、周辺地域にも影響を与える「ハブ」イベントを目指している。

年商10億ドル超のクラシックカーオークション界の雄が挑む新ビジネスとは?|ロブ・マイヤーズにインタビュー

RMオークションズならびにレストアビジネスの創設者、ロブ・マイヤーズ。これからはマイアミで開催されるコンクールの主催者と三足の草鞋を履く。

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「ガレージ」は単に雨風をしのぐ車の保管場所ではなく、世界的な大企業の出発点としての役目も果たす。ジェフ・ベゾスはアマゾンを、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックはアップルをガレージで創業した。もっと昔の話なら、ウォルト・ディズニーだってガレージを活動拠点としていた。

そして、今回のインタビュー相手であるロブ・マイヤーズ率いるクラシックカー帝国も、始まりはガレージだった。そしてマイヤーズは現在も人口4500人のカナダ・オンタリオ州ブレナムからRM企業群の運営をしている。さすがにガレージは卒業しているが…。

●車趣味は父親譲り

現在 67歳のマイヤーズはカナダ・オンタリオ州、チャタム・ケント地方で生まれた。そこは、五大湖のど真ん中に位置し、アメリカ・ミシガン州デトロイトとの州境からセントクレア湖を渡って約1時間、あるいはハイウェイ401号線を少し走ったところにある。

幼い頃から車に囲まれた生活を送っているが、決して裕福な家庭に生まれ育ったわけではない。地元のイートン・スプリングスで働いていたマイヤーズの父親にとって、ヒストリックカーが趣味であった。そして父親の趣味が幼いマイヤーズの基礎を築いたといっても過言ではない。

「父は廃車寸前の古い車を購入してきては、長兄と2人の妹が成人したときに乗れるようにコツコツと直していました。ある時、1936年式のフォード車を買ってきて、地元のクラシックカー・クラブに所属したんです。私は放課後、父親の作業を手伝っていましたよ」とマイヤーズは振り返る。彼の興味が学校以外に向くのはごく自然な流れだった。

●ガレージで起業

「学業はあまり好きではなかったので、自宅のガレージでバンやバイクのカスタムペイントに多くの時間を費やしました。そんな自宅ガレージ、1976年には軽度な事故修理に対応できる小さな板金工場“RMレストレーション”へと“進化”しました」

1979年頃にはガレージよりも遥かに広い、建物面積約100坪の板金工場で本格的に商売を始動させた。新しめの車の事故修理はあまり好きではなかったというマイヤーズは、アンティーク・カーの修理に重きを置いた。

「初めての大仕事はA型フォード・セダン・デリバリーで、そこからどんどんレストア仕事が舞い込むようになりました。自分でウッドのリペアもしたことが懐かしいです」

1980年代後半になると、マイヤーズが抱える従業員は40名ほどに膨れ上がり、世界最高峰のコンクール・デレガンスの芝生を飾るようなレストアを手がけるようになっていった。初めて本格的なレストアを手掛けたのはカナダの顧客のためのデューセンバーグで、RMレストレーションは同車をペブルビーチに持ち込んだ。

●コンクール・デレガンスの常連に

「最高峰の車趣味の世界を垣間見ることができただけでなく、完全に虜になりました。デューセンバーグを持ち込んで以来ほぼ毎年、ペブルビーチでフルレストア車両を持ち込んでいます。2023年は1937年のメルセデス・ベンツ540Kスペシャル・ロードスターを持ち込んで、8度目の“ベスト・イン・ショー”を受賞できました。表彰時のスリルはまったく飽きることがありません」

RMレストレーションでは常時、ペブルビーチ“レベル”のレストア案件を10件ほど抱えている。

「ペブルビーチ・コンクール・デレガンスに出品するような車両は、工数で示すなら1万時間は下りません。ありがたいことに、現在、レストアの受付は数年待ちです。我々のレストレーションは世界でも最高峰だと自負していますが、それよりも気に入っていることは従業員が長く居付いてくれていることです。たとえば椅子張り職人のポール・ギャランは私が採用した2人目の従業員で、現在までで勤続40年におよんでいます」

1970年代後半から80年代前半にかけて板金工場が軌道に乗ると、マイヤーズは個人事業主として62年のシボレー、コルベット、マスタング、シェルビーなどのクラシック車両の売買を始めた。「直して売る、ということをしていましたから、いつしかグラスファイバーの修理を得意とするようになりました」

これがマイヤーズにとって新たな武器となった。

●オークションに乗り出す

「10代後半だったか20代前半だったかの頃、裕福なモルモン教徒のお客様が金主になってくれました。彼は私に車の購入資金を提供し、私は車を売って利益を折半しました。オークションハウスに車をどんどん委託販売してもらって、1年で600台くらい販売したこともありました。自分でオークションハウスをやりたいと思ったのはレストアよりも儲かるし、車の売買がとても好きだったからです。もちろん、年間 600台分もの落札手数料を払わなくて済む、というのも大きな魅力でした」と笑みを浮かべた。

1989年、マイヤーズはオンタリオ州トロントにある年商約60万ドルと小さめなオークションハウス「コレクター・カー・プロダクションズ」を買収した。その後、1993年にはミシガン州ノヴィのオークションハウス、1996年にモントレーのオークションハウスがマイヤーズによって買収された。1990年代半ばにはRMも初めて北米という枠を越え始めた。

「サザビーズとクリスティーズは自動車部門を諦め、イギリスではボナムスによる寡占状態でした。コイズの買収も検討はしましたけれども、金額が折り合わず自分たちの会社を成長させることにしました。適切な人材を雇用して鋭意成長に務めました」と振り返った。

2014年以来、サザビーズはRMオークションズに資本参加しており、運営規模はかつてないほど大きくなっている。世界各地に140名のスタッフを擁しイギリス、ドイツ、イタリア、スイスに海外事務所を構え、2023年には36のライブ・オークションとオンライン・オークションで総額 9億ドルの売上を記録した。また、同社は史上最高となるクラシックカー落札記録を3つ樹立している。その筆頭が2022年に1億3500万ユーロで落札されたメルセデス・ベンツ300SLRウーレンハウト・クーペがRMサザビーズにて取引された。そして、RMサザビーズが取り扱うのに、実にうってつけだった。というのもマイヤーズ、普段の足にはメルセデス・ベンツ300SLロードスターを愛用しており、年間走行距離は1万マイルを走破しているほどの300SLエンスージャストだからだ。

彼は膨大な数のクラシックカー・コレクションを築いているわけではない。しかし、16歳のときに買って乗りつぶした1936年式のプリムスセダンや、父親から受け継いだ2ドアハードトップのエドセルとはまったく次元の異なる名車を所有している。一時はかなりの数に及んだし、ハーレーダビッドソンの元ディーラーとして300台ほどのモーターサイクルも所有していた。いつしかコレクションに支配され、どちらが主役なのか分からなくなるほどだった。保有台数が増えたコレクターが陥りがちなジレンマなのかもしれない。

「今は12台ほどのモーターサイクルと、クラシックカーを少々保有しています。クラシックカーは4人の孫に譲るつもりでラインナップしています。一人はランボルギーニLM002、たまたま今9歳になる孫娘が生まれたときに購入したランボルギーニ・カウンタックは彼女に渡すつもりです。そのほかにはフェラーリ数台、289コブラがあります。キャロル・シェルビーとは仲が良かったので、かれこれ25年所有しています。2000年代はじめにはフェラーリ250GTOが数台コレクションに含まれていましたから、今も所有していたら…、と思わないこともないですが、深い後悔の念はありません」

マイヤーズは抱える顧客のようなコレクターとは違う、ということでもあろう。相当な車好きであることに違いはなくとも、車をコモディティとして見ている。何かを買っては売って、生計を立てて、会社を大きくする努力を怠らない、いわば“根っからの車屋”と呼ぶべき人物なのもしれない。

「この業界でこれほど長く、面白いキャリアを歩んでこられたことを幸運に思っています。いつも若い人達に言っていることは“金のためだけに働くな”です。好きなことをやり続ければ、それが得意になり、金は後からついてくるものです。金は二の次で、少なくとも私は46年間ビジネスを最優先してきました」

RMはレストアとオークションという枠をもはや超越している。プライベート・セール、腕時計、NBA関連グッズなど車以外のオークションも手掛け、現在の年商は10億ドルを超えている。2018年からは富裕層コレクター向けのローン、エクイティ・リリース(高額クラシックカーを担保に資金を貸し付ける、リバースモーゲージのような仕組み)などのファイナンス事業も始めた。そして生まれ故郷であるチャタムにて「レトロスイーツ」というホテルも経営している。

●イベント事業に乗りだす

そんなマイヤーズ率いるRMは新たにイベント事業に取り組んでいる。RMは長年、ビル・ワーナーが手掛けるアメリア・アイランド・コンクール・デレガンスと関係が深かったが、ハガティが買収して以来、その関係性も終わりを迎えた。そんなことを契機にRMがスポンサーを務めたり、パートナーシップを結んでいる既存のイベントに目を向けた際、“自分ならどうするか”マイヤーズは考えた。そして、2024年2月29日に開幕した4日間のクラシックカーの祭典「モーダマイアミ」で体現した。実に1年足らずでの構想から実行である。マイアミ・コーラルゲーブルズにあるビルトモア・リゾートには150台のクラシックカーが集まり、なかにはペブルビーチ・ウィナーの展示、パレード、コンクール、ポップアップストアの出店、ホスピタリティ多数、そして、RMサザビーズのオークションも開催予定だ。響きは良いが正直なところ、目新しさはないように感じる。

「“モーダマイアミ”は我々にとって初めて白紙の状態からスタートしたイベントで、独自色を出したクラシックカー・イベントです。今までのようなパートナーとして、またはサポーターとしてのイベント開催とはまったく性質が違います」と筆者の思いを察したマイヤーズが念を押す。

「3年前、ビルがアメリア・アイランド・コンクール・デレガンスを手放す際、正直ガッカリしましたし、私たちが購入することも検討しました。ただ、ビジネスの観点から見ると、それほどエキサイティングではなかったことも事実です。成長の可能性はかなり限られているような雰囲気でしたし、自分たちのビジョンを創造するのではなく、どうしてもビルが敷いたレールを引き継ぐことになってしまいます。私たちが自問したのは“ゼロからイベントを始めるとしたら我々がやるのはこれだろうか?”でした」

マイヤーズとマイヤーズのチームが出した答えは“NO”だった。

「アメリア・アイランド・コンクール・デレガンス購入に向けたデューデリジェンスを行っている最中、我々はマイアミにある駐車場でのオークションを開催しました。マイアミという街はとてもスタイリッシュで飛行機のアクセスも良く、国際都市としても熱気を帯びています。そんなとき、奇遇にも友人がコーラルゲーブルズにあるビルトモア・ホテルを案内してくれたんです」

マイヤーズは直観的に“オークション開催地として、クラシックカー・イベントの開催地として最良の場所”だと感じ取ったという。そして、マイアミと言えば昼だけでなく、夜の繁華街としての表情も豊か。

「大きな打ち上げ花火のような雰囲気で初回を開催したいと思いました。車の朝活(カーズ&コーヒー)のようなイベント主催でもよかったのですが、既にカナダの本社ビルで開催しているものは1000人規模の参加者が集まってくれています。だから、もっと大きなイベントをしたい、と思っていました。単なる車のショーの枠に囚われることなく洒落たファッション、美味しい食事、北米最大のプールを活用したウォーターショーに展示会など、ライフスタイルを提案するイベントです」

老若男女を問わず、車に乗らない人たちにも楽しんでもらえるような内容になっている、と自信ありげだ。それにしてもたった1年足らずでモーダマイアミの開催にこぎつけるとは、そのヒントはどこにあったのだろう。ペブルビーチなのか、グッドウッドなのか、興味津々である。

「多くのカー・ショーがペブルビーチに対抗するような振舞をしています。ペブルビーチは不滅の大御所という立ち位置で、対抗するのは無駄というか、対抗するのではなくその事実を受け入れ、自分たちのイベントで独自路線を築くほうが聡明だと思っています」

グッドウッドも同じような話で、あれだけのエネルギー、完璧なまでの想像性、そしてカタチにする能力に歯向かおうとするのは誤りだとマイヤーズは語った。

では、モーダマイアミの成功を計るうえでの基準はどこにあるのだろう?チケットの売上高なのか、スポンサー獲得数なのか。これにもまた、マイヤーズ独自の見解があった。

「目指すのはモーダマイアミが“ハブ”イベントになることです。つまり私たちのイベントに付随して周辺地域でほかの主催者たちによるオークション、カー・イベント、各種フェスティバルがどんどん開催されていくことが成功を計るうえでの目安になります」

つまりはモンタレー・ウィークのように、ひとつの主催者が盛り上がるのではなく、複数の主催者による参入を促すことで街全体にとって巨大な“お祭り”にすることを目指しているのだ。野心的に聞こえるかもしれないが、動いているのはマイヤーズだ。今後、毎年2月はマイアミ詣でが必須になることだろう。

編集翻訳:古賀貴司(自動車王国) Transcreation:Takashi KOGA (carkingdom)

Words:James Elliott Photography:RM Sotheby’s