日本人の地獄と極楽のイメージを形づくった書物 細かく丁寧に解説―石田 瑞麿『往生要集入門 悲しき者の救い』橋爪 大三郎による書評

AI要約

源信の『往生要集』は日本人の地獄と極楽のイメージを形づくった書物。仏教学者の石田瑞麿氏が丁寧に解説する。

『往生要集』では因果応報により地獄への堕落があるが、阿弥陀仏の極楽浄土に往生する方法も語られる。

本書は極楽往生のマニュアルであり、浄土信仰の普及につながった歴史的な文献である。

日本人の地獄と極楽のイメージを形づくった書物 細かく丁寧に解説―石田 瑞麿『往生要集入門 悲しき者の救い』橋爪 大三郎による書評

源信の『往生要集』は日本人の地獄と極楽のイメージを形づくった書物。それを、仏教学者の石田瑞麿氏が細かく丁寧に解説していく。

仏教は因果応報だ。生前の行ない次第で当然地獄に堕ちる。犯した罪の重さや種類ごとに、等活地獄/黒縄地獄/衆合地獄/叫喚地獄/大叫喚地獄/焦熱地獄/大焦熱地獄/阿鼻地獄、の行き先が決まる。等活地獄でも残酷なのにその先は一段進むたび桁違いの苛烈さ。目が回る。

ではどうする。阿弥陀仏の極楽浄土に往生しなさい。まず仏の教えを守ること。特に大事なのは念仏だ。

『往生要集』にいう念仏は、極楽の様子をありありビジュアルに想い浮かべること。蓮華座を観たら仏の頭を観て鼻を観て手を観て、…やってみると難しい。臨終も大切だ。同胞に囲まれ励まされて、最期の瞬間に阿弥陀仏の来迎を体感しなさい。

要するに、インテリ貴族が暇に任せて仏典を読み漁りまとめた極楽往生のマニュアルだ。庶民に実行は無理。法然が後に称名(しょうみょう)念仏(南無阿弥陀仏と声に出して称える)を創始するとやっと浄土信仰が広まった。

本書の初版は一九六七年。半世紀を経た古典が文庫で再刊された。

[書き手] 橋爪 大三郎

社会学者。

1948年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。執筆活動を経て、1989年より東工大に勤務。現在、東京工業大学名誉教授。

著書に『仏教の言説戦略』(勁草書房)、『世界がわかる宗教社会学入門』(ちくま文庫)、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『社会の不思議』(朝日出版社)など多数。近著に『裁判員の教科書』(ミネルヴァ書房)、『はじめての言語ゲーム』(講談社)がある。

[書籍情報]『往生要集入門 悲しき者の救い』

著者:石田 瑞麿 / 出版社:講談社 / 発売日:2024年02月15日 / ISBN:4065348439

毎日新聞 2024年5月25日掲載