「教科書通りの言葉が相手の心に届くとは限らない」刑務所の診療医・プリズンドクターになったおおたわ史絵が直面した現実

AI要約

総合内科専門医のおおたわ史絵さんがプリズンドクターとして刑務所内での診療に携わるきっかけや内容について語っている。

刑務所内での診療は普通の病院と同様に行われるが、医療器具や薬に制限があるため、条件の中で診療を行うことになる。

被収容者の犯罪や病気の種類は様々であり、治療に対する理解の違いや拒否などの困難もあるが、真摯に向き合い治療に努めている。

「教科書通りの言葉が相手の心に届くとは限らない」刑務所の診療医・プリズンドクターになったおおたわ史絵が直面した現実

内科医師の中でも難関である総合内科専門医の資格を持ち、メディアでも活躍する医師・おおたわ史絵さん。刑務所内で被収容者を診療するプリズンドクター(矯正医官)としても活動しています。知られざる「堀の中」について聞いてみました。(全2回中の1回)

■塀の中の診療に怖さや嫌悪感はなかった

── プリズンドクターになったきっかけを教えてください。

おおたわさん:医師として刑務所で被収容者の診療をする仕事で、それらを担当する医師のことをプリズンドクター=矯正医官と呼びます。常勤の方もいますが何か所か兼任している方が多く、他の病院での外来や大学病院で研究しながらプリズンドクターをしている人も。私は現在、月に10日ほど、2か所の刑務所で診療をしています。

私の場合は、法務省の人事の方に「プリズンドクターが不足しているのでやってほしい」とお声がけいただいたことがきっかけです。話を聞いた後に実際に刑務所に見学に行ったのですが、特に嫌悪感や怖いと感じるようなこともなく、むしろ面白いと感じたことで「自分に向いているのでは」と思い、引き受けることにしました。もちろん断る方もいるので、誰しもがそう感じるわけではないと思います。私が二つ返事で引き受けたので、法務省の方も驚いたようです。

最近では法務省のリクルート活動もあり、都心部では人手が充実してきたそう。ただ地方ではまだまだたりないみたいですね。

── どのような診療を行うのでしょうか?

おおたわさん:刑務所内の診察室には私のほかに刑務官と看護師がいて、看護師は刑務官が資格を持って兼務していることが多いです。患者である被収容者の犯罪は、殺人、強姦、銃刀法違反、薬物常用などさまざま。診療内容は普通の病院と変わりませんが、医療器具や薬などに制限があるため、限られた条件の中で診療を行います。

患者は20~90代まで幅広く、がんや生活習慣病、精神疾患などを患っている方がほとんど。刑務所に来る前から発症している人もいれば、来てから発症する人もいます。それらの継続治療がメインで、生きていくための診療。緊急性が高い場合は、連携している大きな病院に搬送することもあります。

── 刑務所でも治療ということで、怖い思いをされたことはないのでしょうか?

おおたわさん:体制がしっかりしているので、診療中に怖いと感じたことはありません。ただ困ることはたまにあって、たとえば外国人の被収容者は日本人と価値観が違うため、薬を処方しても服用してくれないことが。ほかにもがんの治療を拒否する人、精神疾患の影響でガリガリになるまで食事をしないなど、いろいろな人がいます。それぞれとしっかり対話することで根気強く説得していますが、治療法を最終的に選ぶのは患者自身。無理強いはしませんが、どうしてその治療が必要なのかをしっかり説明するようにしています。