ペンローズの「特異点定理」はなにを証明したのか。ブラックホールの中心を理解するその考え方とは

AI要約

重力やブラックホールにまつわる重要な科学史を紹介する新刊『宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学』から、ペンローズの特異点定理の証明について紹介されている。

ペンローズが特異点定理で示した内容は、物理的な物質が存在し、宇宙空間が無限で捕捉面が存在する場合、ある光線には終端が存在することを示している。

特異点定理では、「光的エネルギー条件」を満たす物質、捕捉面、および光線の挙動について説明されており、光線の無限延長が矛盾を生じることから、ある光線が有限の距離で進むことを示す。

ペンローズの「特異点定理」はなにを証明したのか。ブラックホールの中心を理解するその考え方とは

物理学でも最大の謎の一つとされているものが「重力」です。そこで、重力と天体にまつわる重要な科学史を、新刊『宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学』から紹介します。

重力天体としてられるブラックホールですが、以前の記事で、ブラックホールの存在がいかに理論的に確立されたのか、天才物理学者・数学者たちの足跡を紹介しました。この記事では、さらにペンローズの証明について掘り下げてみます。

ペンローズが証明した「ブラックホールが形成されること」をもう少し掘り下げて説明してみましょう。

彼が証明した内容は「特異点定理」(ペンローズ、1965年)とよばれます。

1965年、ペンローズは有名な特異点定理を証明しました。その特異点定理によれば、ある物理的な物質が存在し、宇宙空間が無限に広く、かつ、捕捉面が存在するならば、光線が無限に延長できない。

つまり、特異点定理では、ある光線には終端が存在することが結論されます。

はじめて登場する言葉が出てきたので、その説明をしながら特異点定理のあらましを見ていくことにしましょう。

まず「ある物理的な物質」とは、数学的には「光的エネルギー条件」を満たす物質のことです。この光的エネルギー条件とは、光速で移動する観測者(光など)から見て、物体の質量(広い意味ではエネルギー)が必ず正であることを意味します。本稿では、その条件を表す詳細な数式を提示しませんが、我々が日常知っている物質はこの条件を満足します。

次に、外向きの光でさえも強い重力によって収縮する(「中心」に引き込まれる)領域が存在する場合、その境目を「捕捉面」とよびます。

ある物理的な物質が存在し、宇宙空間が無限に広く、かつ、捕捉面が存在する場合に、すべての光線が無限に延長できると仮定します。このとき、矛盾が生じることを示すことが、この定理の証明における主要な点です。

矛盾が生じることから「すべての光線が無限に延長できる」とした仮定が間違いだったことになります。つまり、ある光線は有限の距離で進めなくなることが示されました。