【社説】定額減税 政権浮揚の思惑が露骨だ

AI要約

定額減税がスタートし、政府が国民へアピールに躍起

経済効果が疑問視される中、複雑な仕組みと背景について

経済の好循環回復には、他の施策が必要との議論も

【社説】定額減税 政権浮揚の思惑が露骨だ

 経済効果が疑わしい減税に国民が振り回されているように見える。

 所得税と住民税の定額減税が今月から始まる。岸田文雄首相の肝いりで、政府は国民へのアピールに躍起だ。

 定額減税の対象者は年収2千万円以下の納税者と扶養家族で、減税額は1人当たり所得税3万円、住民税1万円の計4万円となる。1日以降に支給される給与や賞与に減税が反映される。

 仕組みは複雑だ。収入や世帯構成によって、所得税の減税が1度で終わる人、年末まで続く人、納税額が少なく差額を給付される人などさまざまだ。減税を受けられない住民税非課税世帯には、別に現金給付がある。

 定額減税は納税者の負担を一時的に軽減する措置に過ぎない。減税分がそのまま貯蓄に回れば、経済対策としての効果は薄まる。

 減税に込めた政府の意図は経済効果だけではない。

 派閥の裏金事件で内閣支持率は低迷が続く。定額減税を政権浮揚に利用する思惑はあからさまだ。首相は先月の自民党役員会で「減税の恩恵を国民に実感いただくことが重要だ。集中的な広報など発信を強めていく」と述べた。

 その手段として、給与や賞与の明細に減税額を明記することを雇用主に義務付けた。驚くばかりだ。

 経理部門の担当者は煩雑な事務作業に追われ、悲鳴を上げている。たった一度の減税のために給与システムの改修が必要な企業もある。

 国会で野党議員が「企業などに相当な負担をかけていると認識しているか」と問うと、首相は「多くの国民に(減税を)理解し感じていただくのは、30年ぶりに経済の好循環を回復するために大変重要」と答えた。負担を強いている自覚はないようだ。

 首相は昨年秋に「成長による税収の増収分を国民に還元する」と減税を打ち出した。実際は税収が増えても必要な歳入を賄えず、国債の残高は膨らむ一方だ。国民に還元する余裕などない。

 むしろ防衛力増強や少子化対策の財源を確保するため、負担増をお願いしなければならない立場である。勘違いも甚だしい。

 日本経済の状況は好循環に程遠い。今年1~3月期の実質国内総生産(GDP)成長率は、年率換算で2・0%減と2四半期ぶりのマイナス成長だった。歴史的な円安による物価高で、GDPの過半を占める個人消費が4四半期連続で減少したのが大きい。

 個人消費を増やすには、物価高を上回る賃上げ以外にない。連合によると、今春闘の賃上げ率は33年ぶりに5%を超えた。この賃上げの波を労働組合がない中小・零細企業や個人事業主へ広げ、来年以降も持続させなければ好循環は生まれない。

 減税による一時的な可処分所得の増加で状況が好転すると考えるのは楽観的過ぎる。