スポーツでの性暴力被害者どう守る 相談受け調査する機関設置を急げ

AI要約

ヒューマン・ライツ・ウォッチが2020年に日本スポーツ界の暴力に関する報告書をまとめた。報告書では、25歳未満の回答者381人中19%が暴力を受けたと回答し、性暴力やセクシュアルハラスメントを受けた者は数名だった。

指導者による暴力についての不安、子供が幼い場合の認識の問題、そしてスポーツを通じて子供の権利を守る必要性が述べられている。

加害者の行動や子供ができる対応、保護者の情報収集と対応、そして国の対応が必要とされている。

スポーツ界での暴力を禁止する法律の遅れ、米国のセーフスポーツセンターの設立、指導者研修の重要性、および日本での対応の遅れが指摘されている。

性暴力に関する情報や体験談を募集しており、性暴力に関する相談窓口や支援センターの情報も提供されている。

スポーツでの性暴力被害者どう守る 相談受け調査する機関設置を急げ

 ヒューマン・ライツ・ウォッチでは、2020年に日本スポーツ界の暴力の実態に関する報告書「数えきれないほど叩(たた)かれて」をまとめました。その中で、殴られた、蹴られたなどの暴力を受けたと答えた人は25歳未満の回答者381人中19%だったのに対し、性暴力やセクシュアルハラスメントを受けたと答えたのは5人。オフレコでならと被害を打ち明けてくれた人はいましたが、「墓場までもっていきます」という深刻な様子でした。性暴力は、被害について声をあげるのが難しいと感じました。

 指導者は選手起用の権限を持ちます。被害を受けた選手は、訴えたら試合で使われなくなるのではないかという不安を抱きます。これまで積み上げてきたキャリアが崩れるかもしれない。家族が悲しむのではないか。さまざまな思いが、声をあげることをためらわせます。選手が幼い場合、「先生がすることは正しい」という“教育”により、性虐待だと認識しないケースもあります。

 スポーツ界でこうしたことが明るみに出ると、「スポーツをそこまでしてする必要はない。やめればいい」と言う人がいます。しかし、遊びの一環であるスポーツをすることは「子どもにとっての権利」です。発達にも重要な影響を与えます。その場を安全な場として守るのは大人の義務です。

 では、どうやって守るのか。加害者は最初は軽い行為から始めることが多いです。これも指導の一つだとして、子どもを手なずけながらエスカレートさせていきます。そういう実情をまずは知っておく。子どもには、こういった場面に出くわしたら、その場を避けて、信頼できる大人に相談することを伝えましょう。相談を受けた大人は子どもの言葉を否定せず「味方である」というメッセージを伝え、話を聞くことが大切です。性暴力はどこでも起きる可能性があります。地震に対する考えと同じように、起きるかもしれないから備えるのです。

 保護者は、チームの指導者が子どもを尊重して接しているか、という情報を集めることも大切です。暴言を吐いたり、殴ったりなどの噂がたってないかに気を配りましょう。また、問題がおきたときに他のチームに移る選択肢を持っておくことも大事でしょう。

 ただし、個人でできることには限界もあるため、国としての対応を求めます。

 日本では、スポーツ界の暴力を禁止する制度を作るのが遅れています。スポーツ界と同様に、家庭や職場にも上下関係はありますが、それぞれ児童虐待防止法や改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)など、禁止する法律があることで、抑制や啓蒙(けいもう)に役立っています。日本では子どもの虐待は法律で禁止されていますが、これがスポーツにも及ぶことを明示する法律はありません。

 虐待が起きた時は、現在、各団体の自主的な対処にゆだねられています。相談窓口を整備する団体も増えましたが、通報方法や受付時間などに統一の基準はなく、ばらばらです。私たちの調査では、こうした相談窓口の存在を知っている人は、ほぼいませんでした。匿名ではなく記名を求める団体もあり、相談者の権利が守られるかといった点を不安に思う人もいるでしょう。

 米国では、体操女子代表チームの医師が数十年にわたって選手に性暴力をはたらいていたことが発覚したことを機に、17年に独立機関である「米国セーフスポーツセンター」が立ち上がりました。性被害を受けた被害者は、ここに相談すれば調査をしてもらい、加害者に対する処分をしてもらえます。処分結果はデータベースとして公表されます。センターは、ルールやガイドラインの制定、研修・教育も幅広くやっています。日本にもこうした機関の設置が急がれます。

 近年は性暴力や体罰に関する指導者研修を採り入れる団体も増えてきました。しかし、受講するだけでは不十分です。欧米諸国では、研修を受けた専門家をチーム内に配置し、相談を受けたらその人が責任をもって行動する動きが広がっています。例えば日本サッカー協会でも「ウェルフェアオフィサー」という取り組みが進んでいます。こうした研修を実際に運用していく制度が各団体にひろがり、責任を持って人権侵害に対処していくことを望みます。(聞き手・藤田絢子)

■【情報や体験談をお寄せください】

 性暴力を受けた被害者の傷は何年経っても癒えることがありません。スポーツの場では、メンバー選びや進路に影響力を持つ指導者側の立場が圧倒的に強く、周囲がその指導者を守ろうとする雰囲気があり、被害者が声を上げにくい状況があります。朝日新聞では改めて、スポーツ界の性暴力問題に取り組みます。情報や体験談、ご意見をt-sports-dept@asahi.comまでお寄せください。

【性暴力に関する相談窓口】

■性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(内閣府男女共同参画局)

電話:#8891 ※携帯、固定電話から利用可能

■スポーツにおける暴力行為等相談窓口(日本スポーツ協会)

電話:03・6910・5827 ※毎週火、木曜の午後1~5時受け付け