性暴力被害者を守るスポーツ団体の策は トライアスロンは女性用窓口

AI要約

スポーツ界における性暴力やセクハラに対する取り組みや相談窓口の重要性について

女性専用の相談窓口設置の効果や各競技団体の取り組み、差異について

日本スポーツ協会や各競技団体が性暴力を未然に防止するための取り組みや教育プログラムの存在

性暴力被害者を守るスポーツ団体の策は トライアスロンは女性用窓口

 スポーツの場で性暴力が起きた場合、各競技団体や組織は、被害者を守り、必要であれば調査や処分を行うことが求められる。相談しやすくすることや、被害を少なくしていくための啓発や教育の機会も大切だ。予防策を講じているが、対応には濃淡がある。

 日本トライアスロン連合には「女性専用セクシャルハラスメント関連通報窓口」が2020年から昨年まで設けられていた。

 直接的な暴力や暴言、脅迫、威圧、ハラスメント行為などについての相談を受ける一般の通報相談窓口とは別に、女性弁護士が担当する。現在、担当者の関係から一般の通報相談窓口と一本化されているが、今年中に再設置される予定だ。

 女性専用の窓口を設けた背景を、大塚真一郎専務理事は「女性理事40%以上と定めた19年のスポーツ庁のガバナンスコード(組織統治規定)が出る以前から、我々は男女のフィフティーフィフティーを求め、賞金額も同じにしてきている。女性専用窓口も自然にできた」と説明する。

 実際に女性専用の窓口を設けると、意義は大きいと感じたそうだ。

 「21年から23年にかけて、4、5件の相談がありました。コーチによる不平等や選考の不公平に関する事案でしたが、いずれも女性からの相談。そこに問い合わせてきたということは、担当者が男性だったら話せなかったことも、女性だから相談できたということ。設置は大成功」

 性暴力に関する相談のしやすさも伴うとみる。「他の団体もこうするべきだと思います」

 性暴力に特化した相談窓口はないが、女性からの相談を女性が受けるようにする競技団体もある。

 全日本柔道連盟では、ハラスメント全般の相談を受ける「コンプライアンスホットライン」を設けている。立ち上げ当初は男性弁護士が相談に乗っていたが、女性も相談しやすいようにと19年から女性弁護士も加わった。日本バスケットボール協会でも、女性への性暴力、性的嫌がらせに関する相談は女性弁護士が対応。日本ハンドボール協会は事案の内容によって、女性弁護士へ相談や調査を依頼する。

 性暴力を含む暴力を未然に防ぐ取り組みは、団体で差があった。

 日本サッカー協会では、プロチームを指導できるS級などの指導者資格があるが、どの資格を取る際にもハラスメントに関する講義が含まれている。日本陸上競技連盟や日本水泳連盟は、指導者研修会や強化コーチ会議などで講習の場を設けているという。

 日本バレーボール協会では、指導者講習会の中でハラスメント防止について取り上げている。ただ、実施主体は都道府県協会のため、各協会で取り組みに濃淡がある。協会の灰西克博・競技普及推進本部長は「協会から同じ内容を発信するためにも、今後は全国単位で指導者会議を開きたい」と話した。

 ソフトボールの指導者は4年に1度、日本スポーツ協会の講習を受けることになっているが、指導者資格を持つ人が約1万人と多いことから、日本ソフトボール協会独自の講習は開けていないという。同協会の事務局長は「インテグリティー(高潔さ)を高めるためには教育が必要だが、どのように独自の講習を開くかが課題」とコメントした。

 日本スポーツ協会は、日本オリンピック委員会などとともに、「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」を13年に発出。昨年から「NO!スポハラ」活動を始め、誰もが安心安全にスポーツを楽しめる社会を実現するためにセミナーを開くなどして、予防・啓発に取り組んでいる。

 また、ハラスメント全般の相談を受ける「スポーツにおける暴力行為等相談窓口」を設置。窓口に寄せられる相談のうち、小中高生が被害者となっていたケースが多かったことから、子どもが相談しやすいように、漢字にルビを振るなどした子ども向け専用ページを22年7月に開設した。(編集委員・中小路徹、藤田絢子、藤野隆晃)

【スポーツ指導者による性暴力・セクハラの主な事案】

■2014年

・五輪の柔道金メダリストが、指導していた大学の女子柔道部員に対する準強姦(ごうかん)の罪で懲役5年の実刑判決が確定。

・女子サッカーなでしこリーグの千葉が、選手にセクハラ行為をしたとして、総監督を解任。

■2017年

・顧問をしている運動部の女子生徒に全裸になることを強要したり、セクハラ発言を繰り返したりしたとして、堺市教育委員会が市立学校の教諭を懲戒免職処分。

■2021年

・滋賀県の柔道教室の指導者に対し、小学生に対する強制わいせつの罪で、大津地裁が懲役1年の実刑判決。

■2024年

・バトントワリングのチームに所属していた男性選手にわいせつな行為をしたとして、京都府警が指導者を強制わいせつなどの疑いで逮捕。

■【情報や体験談をお寄せください】

 性暴力を受けた被害者の傷は何年経っても癒えることがありません。スポーツの場では、メンバー選びや進路に影響力を持つ指導者側の立場が圧倒的に強く、周囲がその指導者を守ろうとする雰囲気があり、被害者が声を上げにくい状況があります。朝日新聞では改めて、スポーツ界の性暴力問題に取り組みます。情報や体験談、ご意見をt-sports-dept@asahi.comまでお寄せください。

【性暴力に関する相談窓口】

■性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(内閣府男女共同参画局)

電話:#8891 ※携帯、固定電話から利用可能

■スポーツにおける暴力行為等相談窓口(日本スポーツ協会)

電話:03・6910・5827 ※毎週火、木曜の午後1~5時受け付け