立て続けに2度の降格…なぜ? サラリーマンが会社を訴え「慰謝料」勝ち取る、裁判所が指摘した「人事権の濫用」とは

AI要約

会社から2度の降格を受けたXさんが裁判所で勝訴し、給与および慰謝料の支払いを命じられた事件について詳細を解説。

1度目の降格は売上目標未達や顧客への対応を理由に為されたが、裁判所は過度な行使と見なし無効と判断。

2度目の降格に関しても、十分な根拠がない理由であるとして再び無効と判断され、慰謝料の支払いも命じられた。

立て続けに2度の降格…なぜ? サラリーマンが会社を訴え「慰謝料」勝ち取る、裁判所が指摘した「人事権の濫用」とは

「2連チャンで降格を命じられ、役職手当7万円がゼロに...」

裁判所は「人事権の濫用だ」として会社へ189万円の支払いを命じた。さらに2度目の降格については「明らかに慎重さを欠くものというほかない」として慰謝料30万円の支払いも命じている。(東京高裁 R4.1.27)

以下、事件の詳細とともに、どのような場合に降格が「違法」となるかについて解説する。(弁護士・林 孝匡)

会社は、人事のシステム構築、システム運用管理サービス等を提供する会社である。降格を命じられたXさんは、正社員(入社約12年目)で、サービスプロデューサーの役職に就いており、月給は約60万円であった(職責給約53万円+役職手当7万円)。

会社は、立て続けに2度にわたり、Xさんに対して降格を命じた。

■ 1度目の降格(平成28年1月)

まずは、サービスプロデューサーからチーフプロジェクトマネージャーへの降格である。詳しくは後述するが、会社は「売上目標に達していない」等の理由で、Xさんに降格を命じた。これにより、Xさんがもらっていた役職手当7万円は3万5000円に減額された。

■ 2度目の降格(同年2月)

はやっ! なんと、1度目の降格命令の翌月である。2度目は、チーフプロジェクトマネージャーから、あろうことか「役職ナシ」への降格だ。こちらも後述するが、会社は「チーフプロジェクトマネージャーとしての役割を果たしていない」等の理由で降格を命じた。これにより、Xさんがもらっていた役職手当はゼロとなった。

■ 退職

それから約3年半、Xさんは働き続けたが、令和元年8月に退職。

■ 提訴

Xさんは提訴して、「2回の降格は無効なので差額の給与を求める」などと主張した。

裁判所は「2度の降格は人事権の濫用にあたり無効」として、会社へ189万円の給与の支払いを命じた。さらに「2度目の降格は不法行為にあたる」として慰謝料30万円の支払いも命じている。以下、詳細だ。

■ 降格はどんなケースでNGとなるか?

裁判所は「人事権の濫用といえる場合には降格は無効である」と判断している。詳しく述べると、裁判所の考えは、▽就業規則等に規定がなくても人事権の行使に基づく職位の引き下げとしての降格は人事権の行使として行うことが可能、▽使用者には広範な裁量が認められている、▼しかし、業務上の必要性の有無、程度、労働者の能力、適性、労働者が受ける不利益等の事情等を考慮して、人事権の濫用といえる場合には無効、というものである。

■ 1度目の降格

降格を命じた理由について、会社は「本年度と前年度の売上が目標に達していなかった、Xさんが顧客先で“顧客寄り”の発言をした、営業案件を決めきれず営業に前向きではなかった」旨主張した。

これに対し、裁判所は「たしかに一部の目標については未達との評価を受けているが、事業部利益は89%、全体としては目標達成率93%という評価を得ていた。Xさんがサービスプロデューサーであった期間に2社の案件を受注している。降格された直後にも1社の案件を受注している」として、1度目の降格は「人事権の濫用にあたる」と判断した。

■ 2度目の降格

降格を命じた理由として、会社は「担当した会社の社宅業務について見積もりを上長へ報告せず、所定の社内承認を得ることもなく顧客に提示しており、チーフプロジェクトマネージャーとしての役割を果たしていない」旨主張した。

しかし、裁判所は「そのような証拠はない上、1度目の降格からわずか1か月しかたっておらず、チーフプロジェクトマネージャーとしての役割を果たしていないと判断するのには短すぎる」等述べて、この降格も「人事権の濫用にあたる」と判断した。

■ 慰謝料

さらに裁判所は、2度目の降格について、会社に慰謝料30万円の支払いを命じている。その理由として「会社は、賃金減額を伴う1度目の降格を命じたあとわずか1か月後に賃金減額を伴う2度目の降格を命じており、賃金減額を伴う降格を行うにつき明らかに慎重さを欠くものというほかない」と述べ、会社に過失ありと判断している。

■ 基礎知識

今回の事件のように役職や職位を引き下げる降格について、裁判例の多くは「就業規則などがなくても、職務適性の欠如や成績不良等などの問題があり、法律上禁止される差別・不利益取扱いや権利濫用とならない限り、会社はその裁量によって降格を命じることができる」という立場をとっている。