コロナ前まで9年連続増収! 北海道・十勝バスの地域愛が生んだ「家庭訪問」大作戦をご存じか

AI要約

コロナ禍や在宅勤務など、人々の移動機会が減少するなか、路線バス事業者の96%が赤字に陥っている。

地域社会とのコミュニケーションが成功の鍵であり、十勝バスは顧客満足を重視し、沿線住民とのコミュニケーション戦略を活用している。

バス事業者が生活者との信頼関係を築くことで、バスの利用促進や地域社会との協力が促進される。

コロナ前まで9年連続増収! 北海道・十勝バスの地域愛が生んだ「家庭訪問」大作戦をご存じか

 コロナ禍や在宅勤務など、人々の移動機会が減少するなか、実に「96%」もの路線バス事業者が赤字に陥っている。この問題を打開するひとつのカギは、地域社会とどう向き合うかにある。

 例えば、北海道の十勝バス(北海道帯広市)は、全国的に路線バスの経営環境が厳しいなか、9年連続増収(コロナ以前の2011年から2019年まで)を達成している。同社の成功の秘訣(ひけつ)は、知る人ぞ知る地域住民とのコミュニケーション戦略にある。まさに

「CS(Customer Satisfaction:顧客満足を大切にする経営)」

の実現である。

「運賃や行き先、ルートなどがよくわからない → バスが苦手、乗りたくない」

という生活者の声を真摯(しんし)に受け止めている。「バスが苦手、乗りたくない」というネガティブな感情を解消するため、同社は沿線の各家庭を

「1軒ずつ訪問」

し、バスの時刻表や路線図を手渡しで配布した。バス業界では有名なサクセスストーリーである。

 これは、路線バス事業の基本中の基本に思えるかもしれない。さかのぼれば、バスの営業所やバスターミナル、駅の案内所などのラックに路線図や時刻表を置く例はよくある。しかし、沿線の家庭を訪問しながら路線図や時刻表を配布するケースはあまり見かけない。

 これにはさまざまな効果がある。筆者(西山敏樹、都市工学者)はバス事業者との共同研究を何度も行っているが、それでも生活者からは

「バス営業所は入りにくくて敷居が高い」

「ドライバーが怖そう」

という声をよく聞く。つまり、“バス事業そのものに苦手意識を持っている”生活者が多いように感じる。路線図や時刻表を持っていくなど、スタッフが生活者と直接コミュニケーションをとる機会を設けることは、バス事業者のイメージアップや親近感の向上につながる。

 そうしてバスへの信頼が高まれば、生活者は自発的にバスを利用するようになる。また、バス事業者と生活者が協力してバスの運行を維持することにもつながる。

 筆者は日頃の大学での講義で、地域のよい循環には、

「信頼感の醸成 → みんなの自発的行動 → お互いさまの気持ちを持った協働」

というプロセスが必要だと説明している。その信頼感を醸成するために、十勝バスは沿線を地道に歩くことにしたのだ。これはすべてのバス事業者にとって重要な教訓だと筆者は感じている。

 ちなみに、このサクセスストーリーをもとに、十勝バスの2代目社長である野村文吾氏をモデルにしたミュージカル「KACHI BUS」が上演されたこともあり、十勝バスの認知度はかなり高まっている。