記録的不漁…サンマ漁船でマグロ、イカ漁を「兼業」の動き【大漁!水産部長の魚トピックス】

AI要約

サンマ漁は不漁の中でも厳しい経営状況にある。一部の漁業者はサンマ漁を断念し、代わりにマグロやイカの漁に注力している。

サンマの初物は大漁だったが、豊漁が続く見通しはない。来年以降はサンマの来遊量が低く、漁場も遠く小さいサンマが取れると予測されている。

漁業者は新たな取り組みを模索し、サンマ以外の魚種を取る試みや、マルチパーパス漁船の導入など、多様な戦略が展開されている。

記録的不漁…サンマ漁船でマグロ、イカ漁を「兼業」の動き【大漁!水産部長の魚トピックス】

 近年、サンマは記録的な不漁に見舞われ、関係者は厳しい経営を余儀なくされている。単価は高くなっているものの、漁獲の総額は豊漁期に比べ大幅に減少。サンマ漁に見切りを付ける漁業者が多い一方、サンマ漁船でマグロやイカの漁にチャレンジする動きが出ている。(時事通信水産部長 川本大吾)

◆初物は大漁も…不漁は続く

 秋の味覚・サンマのシーズンが到来し、8月中旬の初物は近年にない大漁だった。東京・豊洲市場(江東区)の初荷はこの数十年で例のない42トンという大量入荷で、卸値は昨年の初荷に比べ10~20分の1という安値だった。その中でわずか1キロ(7匹入り)だけキロ50万円というご祝儀相場が付き、大きな話題となった。

 北海道や岩手県、宮城県でも初物の水揚げがあり、サンマ漁は好調な滑り出しとなった。根室市の鮮魚店では1匹80円の特売が行われたことなどから、「今年のサンマは豊漁で安い!?」と見る向きもあるが、決してそうではない。今年は、例年8月20日だった大型漁船の漁解禁日を10日早めたことや、この時期に比較的近い漁場が見つかったことなどが要因で、豊漁が続く見通しはない。

 国立研究法人水産研究・教育機構が7月末にまとめた「2024年度サンマ長期漁海況予報」によると、今シーズンは「サンマの来遊量は低水準」と分析。漁場は遠い公海で、取れるサンマも昨年よりさらに小さいとみている。

◆「兼業」で船員確保の期待

 サンマの不漁は5年ほど前から深刻となっており、サンマの総水揚げ金額は、2013年が合計200億円以上だったものの、23年は約100億円と半分以下に。この間、サンマ漁船は50隻ほど減り、現在は100隻程度となっている。

 厳しい状況を打開し、サンマ漁業を継続させようと、漁業者は資源の回復に期待する一方、新たな取り組みも始めている。富山県入善町の池田水産は、大型のサンマ棒受け網漁船に「はえ縄」と呼ばれる漁具などを搭載し、南太平洋のタスマン海域でミナミマグロなどを漁獲する試みを数年前から実施。今年6月には、神奈川県の三崎港でミナミマグロなど70トン以上を陸揚げした。

 同港の卸売り場で競りに掛けられ、専業のマグロはえ縄漁船が漁獲したマグロに引けを取らない評価で競り落とされた。「何とか採算が取れることが分かった」と池田水産。来年以降の操業にも期待を込めている。サンマの不漁に伴って操業が減り、下船する乗組員も少なくない。他の魚種を取ることで船員の確保につながり、「兼業」への期待は大きい。

◆北海道ではアカイカ漁の試験操業

 一方、北海道の漁業者は、国立研究開発法人水産研究・教育機構開発調査センター(横浜市)の協力を得て、サンマ漁船でアカイカを取る試験操業を来年から実施する。イカ釣り機を搭載するほか、サンマ誘導用のLED(発光ダイオード)の「漁灯」を、イカ漁向けに広い範囲を照らせるよう配置を変えて臨む。

 近年、スルメイカの不漁で、アカイカの需要が高まっていることもあり、サンマ漁期前の5月から7月ごろまで操業する予定。漁獲後の切り分け、冷凍などの作業の効率を含め、採算性などを確認するという。

 サンマやスルメ、サケなど主要魚種の顕著な不漁を受け、水産庁の不漁問題に関する検討会は2021年6月、「1隻で複数の漁業種類を行える多目的船舶(マルチパーパス漁船)として新たな操業形態のモデルの提示を行うべき」との提言をまとめている。

 実際に他魚種の漁獲が可能になっても、操業を継続するには漁業許可やTAC(漁獲可能量)の配分など漁業管理上の課題もある。既存漁業との調整を含めた柔軟な対応が求められる。