「南海トラフ巨大地震」が連続発生したら…東京湾が「封鎖」される日

AI要約

東日本大震災から13年たち、地震の被害想定や防災対策が必要な『首都防衛』の重要性が示唆される。

首都の弱点である港の重要性や東京湾の海上交通過密海域でのリスクが明らかにされる。

大地震が発生した場合、東京湾埋め立て地の危険性や海上輸送のストップなど、深刻な影響が懸念される。

「南海トラフ巨大地震」が連続発生したら…東京湾が「封鎖」される日

2011年3月11日、戦後最大の自然災害となる東日本大震災が発生した。あれから13年、令和6年能登半島地震をはじめ何度も震災が起きている。

もはや誰もが大地震から逃れられない時代、11刷ベストセラーの話題書『首都防衛』では、知らなかったでは絶対にすまされない「最悪の被害想定」が描かれ、また、防災に必要なデータ・対策が1冊にまとまっている。

(※本記事は宮地美陽子『首都防衛』から抜粋・編集したものです)

堅強に見える首都には、巨大都市ゆえの“弱点”もある。都市災害の課題をキーワードとともに見ていけば、それを理解できるはずだ。最初のキーワードは「港」である。

日本は衣食住で資源の多くを輸入に依存している。食料自給率(カロリーベース)は4割以下にとどまり、エネルギー資源である原油は中東地域にほとんどを頼る。2022年の急速な円安進行で物価が上昇したのは記憶に新しい。貿易の約9割は港経由だ。では、首都を大地震が襲来したとき、我が国の輸入は守られるのか。

東京湾中央航路は、日本経済を支える大動脈として一日あたり約200隻強の中・大型船舶が航行する世界有数の海上交通過密海域だ。港湾で取り扱う貨物は全国のコンテナ貨物の約4割、原油輸入量の約3割、LNG(液化天然ガス)輸入量の約5割を占める。東京湾が大地震に襲われたとき、湾岸部のコンビナートに危機が迫る。

日本地震工学会の会長を務めた早稲田大学の濱田政則名誉教授は危機感を強める専門家の一人だ。東京湾岸をはじめとするコンビナートは、埋め立て地が揺れた場合、重油や原油タンクから漏れが生じ、燃えたり海に流出したりする危険がある。

東京湾沿岸の埋め立て地には、大型タンクにみられる「浮き屋根式」が約600基ある。これらに巨大地震の長周期地震動が生じた場合には、「スロッシング」と呼ばれる現象が起きる。コップを揺らすと中の水が揺れるのと同じだ。

南海トラフで巨大地震が連続発生するという条件でシミュレーションをしたところ、約600基のうち約1割のタンクの中にある油が揺動により流出する可能性があるという。東京湾の埋め立て地は液状化によって耐震化していない防油堤や護岸が破壊されることも考えられる。

大地震が起きた場合、他府県や海外からの救援物資と人員を海上輸送し、緊急対応や復旧・復興活動の拠点となる国の施設「基幹的広域防災拠点」が神奈川県川崎市の東扇島地区にある。しかし、東京湾に大量の重油や原油が流出すれば、通行不能になって海上交通がストップする事態が予想される。

復旧まで約2週間と仮定すると、その間の物流は途絶え、エネルギー供給が麻痺する危機的状況を迎える。東京湾岸には9ヵ所のLNG火力発電所が稼働中で、濱田名誉教授は「海域の安全性は防災の盲点だ」と指摘する。