台湾夜市を悩ます大量の観光ゴミ 秘策は「三国志」にあり

AI要約

台北市最大の士林夜市では、大量のゴミ処理に苦慮していたが、地元の町内会長が三国志の計略をヒントにして、ゴミ袋に使われる竹串の処理を効率化する取り組みを行っている。

通りかかる客がわら人形に竹串を差し込むというアイデアにより、夜市の清掃員が大幅に作業効率が向上し、夜市の環境が改善されている。

士林夜市の里長は、清潔で魅力的な夜市を目指しており、これからもさらなる施策を考えている。

 ポスト・コロナで世界各地の観光地がにぎわいを取り戻す中、大きな問題となっているのが大量に出るゴミの処理だ。台湾観光の顔である夜市の一つで台北市最大規模を誇る士林(しりん)夜市では、地元の町内会長が三国志にヒントを得た「計略」を編み出し、清掃の効率化に成果を上げている。

 顔の大きさほどもある鶏の唐揚げに香辛料が香る「滷味(ルーウェイ)」(台湾風おでん)、臭豆腐(発酵液に浸した豆腐)。夜の訪れとともに、士林夜市にはさまざまな匂いと喧噪(けんそう)が交差する。

 週末には一晩で数万人が訪れ、数多く設置されたゴミ袋も次々にいっぱいになる。回収の障害となってきたのが臭豆腐や海鮮の串焼きなどに使われる竹串だ。

 鋭くとがった竹串の先端で清掃員がけがをしたり、袋に穴が開いて汚れた汁がこぼれたりするのは日常茶飯事。側溝に捨てられた串を清掃機械が吸い込めば、故障につながりかねない。

 そこで地元の里長(公選の町内会長)を務める許立丕(きょりつひ)さん(46)は一計を案じた。

 7月5日、夜市のゴミ箱のそばに高さ1・7メートルほどのわら人形が設置された。両腕につり下がった紙には、中英日韓4カ国語で「ここに竹ひごを差し込んでください」。通りかかった客は次々に食べ終わった串を腕に刺し、その様子を面白そうに撮影していく。

 「これ、『草船借箭(そうせんしゃくせん)』ですよね」

 取材する記者に話しかけてきた大学生、曹仁玲さん(21)の言葉通り、この人形は三国志に登場するエピソードにちなんだものだ。

 蜀の名軍師、諸葛亮孔明は天下分け目の「赤壁の戦い」で、数十万本の矢を短期間で集める必要に迫られる。諸葛孔明はわら束を載せた船を霧に紛れて敵陣の前に進め、敵が慌ててわら束に放った大量の矢を手に入れ悠々と帰陣した――とされる。彼の知謀を示す逸話として三国志ファンの中でも人気で、台湾や中国では学校で学ぶことが多い。

 里長の許さんはある日、三国志を描いた映画「レッドクリフ」を見ていて、金城武さん演じる諸葛孔明が「草船借箭」を繰り出す場面でひらめいた。「これは使える」

 わら人形作りを手がける人に教えを請い、自費で3体を製作。さっそく設置したところ、週末の3日間で約4000本の串の回収に成功したという。客が自発的に串を刺すようになったことで分別が進み、夜市関係者からは「清掃の手間が減り、清掃員が効率よく動けるようになった」と評判は上々だ。

 許さんの目標は、士林夜市を東京の築地場外市場のような清潔な場所にすることだ。「安さだけでなく、美しさで多くの人を引きつける夜市にしたい」。士林の軍師の次なる策はいかに。【台北・林哲平】