「デジタル課税」実現不透明 くすぶる紛争再燃危機 初の閣僚宣言採択も・G20〔深層探訪〕

AI要約

20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議がデジタル課税の早期実施に向けて決意を表明。米国内での議論が進まず、欧州などで独自課税復活への懸念がくすぶる。

共同声明や閣僚宣言でデジタル課税の導入に向けた具体的な作業が進むが、時期や実施方法は不透明。独自課税再開のリスクもある。

米欧関係の緊張緩和や国際協力の必要性が示唆される中、デジタル課税の実施が遅れれば再び紛争が再燃する可能性もある。

「デジタル課税」実現不透明 くすぶる紛争再燃危機 初の閣僚宣言採択も・G20〔深層探訪〕

 26日(日本時間27日)に閉幕した20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、共同声明で巨大IT企業を念頭にした「デジタル課税」の早期実施へ決意を表明した。G20では初めての国際租税協力に関する閣僚宣言も採択。導入に必要な作業の加速を図るが、鍵を握る米国内での議論は進んでおらず、欧州などでの独自課税復活と報復措置の連鎖への懸念がくすぶっている。

 ◇期待以上の成果

 「当初の期待を上回る成果だ」―。閉幕会見で議長を務めたブラジルのアダジ財務相は、議長国として重視してきた超富裕層課税の検討促進などを盛り込んだ閣僚宣言の採択に胸を張った。

 宣言はより喫緊の課題として、2021年に経済協力開発機構(OECD)加盟国を中心に約140カ国・地域が導入に合意したデジタル課税の早期実施に向けた作業の加速を促した。実施に必要な多数国間条約に関する条文の最終確定と各国政府による署名が目標としていた今年6月末から遅れているからだ。

 デジタル課税は、巨大ITなど国境を越えて事業展開する多国籍企業に対し、サービスが利用されている「市場国」が課税できる権利を認める仕組み。導入合意時には、自国に工場や事務所といった物理的拠点があるという国際課税の原則を、経済のデジタル化に合わせて転換する歴史的な合意と評された。

 ただ、課税対象となる売上高200億ユーロ(約3.3兆円)を超え、かつ利益率10%を超える多国籍企業は全世界で100社程度とされ、圧倒的に多いのが米企業だ。このため米議会では、税収の一部が他国に流れることに米共和党を中心に反発が根強く、国内調整が進んでいないのが現状だ。

 ◇独自課税復活も

 デジタル課税は25年の実施を目指す。ただ、共同声明や閣僚宣言が、実施に必要な多数国間条約への各国政府による署名について「できるだけ早く」との表現にとどめ、具体的な時期を示さなかったことで、かえって不透明感も露呈した。

 デジタル課税の導入合意前には、フランスやイタリアなどが国内でサービスを展開する巨大IT企業への独自課税を導入。これに対し、トランプ米政権(当時)は、米企業を狙う不公正な措置だと反発して報復関税の検討を表明し、国際紛争に発展しかねない事態に陥った。

 導入合意によって、欧州勢は独自課税を凍結。バイデン米政権も報復関税を取り下げ、双方が矛を収める格好となっているが、デジタル課税の実施が遅れれば、独自課税を再開する国が現れかねない。独自課税を凍結しているカナダは今月、「自国の措置を不透明なままで保留し続けるのは、合理的でも公平でもない」(フリーランド副首相兼財務相)と、けん制した。

 今年11月の米大統領選挙では、欧州勢への報復関税を持ち出したトランプ前大統領が返り咲く可能性もある。イエレン米財務長官は25日の会見で「ホワイトハウスを誰が支配しようとも、協定を批准する合理的理由があると信じている」と強調したが、紛争再燃の懸念は拭えない。(リオデジャネイロ時事)