舌痛症をご存じですか

AI要約

舌痛症(ぜっつうしょう)は舌が痛くなる病気であり、原因が特定されない身体表現性障害とされています。

舌痛症の症状は多彩で、ひりひりやしびれる感覚があらわれることがあります。年齢や性別によって発生頻度が異なり、治療は難しくストレスが関連していると考えられます。

患者は多くの診療科を受診し、抗うつ薬が処方されることもあるが、服用にためらいを感じるケースもある。

舌痛症をご存じですか

 「舌痛症(ぜっつうしょう)をご存じですか?」と質問すると、ほとんどの方が「何の病気ですか。初めて聞きました」と答えます。舌の病気でよく知られているのは、芸能人もかかった舌がんです。では「舌痛症」とは? 読んで字のごとく舌が痛くなる病気です。

 舌が痛くなる病気は比較的多くあります。痛みの原因としては口内炎が最も一般的です。ほとんどの方が口内炎を経験されたことがあるのではないでしょうか。他には、舌がん、舌炎(舌の炎症)、カンジダ菌感染症、扁平苔癬(へんぺいたいせん、慢性的に舌や粘膜が荒れる病気)、外傷、やけど、貧血の一症状、口腔(こうくう)乾燥なども痛みの原因です。

 これらには原因があり、結果として舌が痛みますが、舌痛症は原因が否定されたときに付く病名です。つまり、何もないのに痛むということです。専門的には身体表現性障害と言います。

 ひりひり、ピリピリ痛いという軽度のものから、焼けるように痛い、舌がしびれる、味がおかしいなど、舌痛症の痛みの種類は多彩です。さらに、唇もひりひりし、顎の裏も痛いなど、舌の領域の範囲を超えて症状がある場合も少なくありません。舌痛症と言うよりは、口腔異常感症と言ってもよいと思います。

 他には、やけどしたような感じだと表現する患者もいます。口腔内灼熱(しゃくねつ)症候群(バーニングマウス症候群)と言われることもあります。舌に症状が出るケースが多く見られるために舌痛症という病名が付いたと考えられます。また、食事中や就寝時に痛みはあまりなく、痛みで飛び起きてしまうこともまれです。他のことに集中しているときは忘れているケースもあるようです。

 発生頻度が高い年齢や性別で言えば、30~70歳の女性に多く見られます。痛みに苦しむ期間としては、数カ月から数十年に及ぶケースもあります。

 われわれ医師の間では、舌痛症はストレスによる病気で、治りにくいという認識が一般的です。あまり知られていない病気ですが、大正時代からあるようです。舌の痛みは、さらに古くからあると思われますが、病名が付いたのがこの時期ではないでしょうか。

 一般的な舌痛症患者の経過をご紹介します。

 舌が痛み、がんや他の病気を考え不安になり、まず耳鼻科や歯科を受診します。そこでは、舌に何もないので「がんはありません、良かったですね。舌痛症と言って、ストレスで痛むこともあります。しばらく様子を見れば自然と良くなりますよ」と言われることが多いようです。

 しかし、がんではなくても医者が症状に対してさじを投げてしまったことになります。やはり痛みが続くため不安になり、内科、外科、大学病院、整骨院など、あらゆる診療科を受診すると「漢方を出してみましょう」「この薬を使ってみましょう」となります。しばらくは治療しますが、あまり改善せず、結果的にあきらめてしまう患者が多いようです。

 また、舌痛症でも症状が強く、日常生活に支障を来しているケースもあります。そんな患者には、最終的には心療内科か精神科が紹介されます。そこで抗うつ薬を処方されることが多く見られます。これには脳内の神経伝達物質を調整し、痛みを取る効果があります。「ちょっと飲んでみましょう。少し楽になると思いますよ」と言われるのではないかと思います。ただ、患者側では「舌が痛いのにうつ病の薬? 怖い」と服用をためらうことも多いようです。もし服用したとしても、抗うつ薬を飲むことに変わりありません。飲み始めてしまうとやめることができなくなってしまう可能性があります。