盗みたい衝動抑えられない「窃盗症」の苦悩や不安 万引で7回逮捕の男性、カブトムシが始まりだった

AI要約

精神障害「窃盗症」の当事者が集まりを通じて不安や悩みを共有し、抑止につながる可能性がある。

窃盗症の深刻さや治療の難しさが語られ、参加者の体験や心境が具体的に紹介されている。

自己管理のための工夫や過去の行動に関するリフレクションが述べられ、最後の万引きからの取り組みも明らかにされている。

盗みたい衝動抑えられない「窃盗症」の苦悩や不安 万引で7回逮捕の男性、カブトムシが始まりだった

 盗みたい衝動を抑えられない精神障害「窃盗症」の当事者が、不安や悩みを打ち明ける集まりが全国各地にある。広島市内では月2回、ミーティング「KA(ケイエー)広島」が開かれている。「また盗んでしまうかもしれない」などの不安を正直に打ち明け合う。そういった積み重ねが抑止につながる可能性があるとし、専門家も参加を勧めている。

 窃盗症は「物を盗みたい」という衝動をコントロールできない状態が何度も起きる精神障害。依存症の一つだが、治療や研究の蓄積が少なく、実態の解明が遅れているとされる。

 「KA広島」は2015年に始まり、現在は約10人が参加する。他人が話した内容を批判したり、質問したりしないのがルールだ。参加者は盗んだ体験や、盗みたい衝動を抑えにくいことなどを打ち明ける。

 広島市中区の自営業男性(63)は、万引による逮捕歴が7回ある。「重度の窃盗症」と診断され、また繰り返さないかという不安を常に抱えて生きる。

 10歳のとき友人の家でカブトムシを盗んだのが始まりだった。それから駄菓子屋の菓子、電器店のラジカセ、スーパーの総菜…。「万引した方が早くてお得という脳になってしまった」。特に仕事で疲れがたまると、善悪の判断ができず無性に取りたくなるという。

 2015年、精神科病院で「重度の窃盗症」と診断された。幼少期を振り返ると、地域から尊敬される父親の元で育ち、「ちゃんとしなければ」という緊張の中で育った。勉強のできる兄と妹を横目に、自らは高校受験に失敗し、劣等感を抱いてきた。

 「取りたい気持ちは今も脳にびっしりついている」。男性は、家族には「もう大丈夫」と偽ってしまう。KA広島では、他の参加者の前で「取っちゃうかも」と本音を言うことができ、自分の危うさに気付くことがある。

 店には一人で行かず、なるべく通販で欲求をかわす。店で購入したらレシートをノートに貼る。同居の母親に商品とレシートを一つ一つ照合してもらう。最後の万引は2021年11月だ。それからは何とか踏みとどまっている。