50歳で「養子」に授乳するゴリラを確認、異例かつ感動的、母に拒絶された子2頭を世話

AI要約

メスのフレドリカは高齢の50歳で、ゴリラの平均寿命を13年も上回るパワーを持つ。彼女は12頭の子を持ち、養子のカイェンベとジャミーラを大切に育てている。

フレディの行動から霊長類の適応性と柔軟性がうかがえ、彼女の乳汁を飲むカイェンベに関する研究結果も驚きの事実を明らかにしている。

フレディの誘起泌乳が初めて確認され、それは経験豊富な母親としての彼女の姿勢によるものであるという。また、霊長類の閉経に関する進化的視点も考察されている。

50歳で「養子」に授乳するゴリラを確認、異例かつ感動的、母に拒絶された子2頭を世話

 米国オハイオ州にあるクリーブランド・メトロパークス動物園のニシローランドゴリラの専用スペースには、7頭のゴリラの群れが暮らしている。メスのフレドリカは、赤ちゃんゴリラのジャミーラを優しく抱きかかえ、背中には幼いカイェンベを乗せている。やがてカイェンベがフレドリカの背中から下りて、干し草の山で遊びはじめた。

 動物園のスタッフは、フレドリカのことを「フレディ」という愛称で呼んでいる。6月5日に50歳になった彼女は、飼育下のゴリラの平均寿命を13年も上回っている。彼女はこれまでに12頭の子を産んでいて、孫も、ひ孫もいる。2021年10月生まれのカイェンべと2024年1月生まれのジャミーラは養子で、どちらも実の母親から拒絶されてしまった子どもだ。

 高齢のフレディが生物学的な血縁関係のない2頭の養子を育てているのは非常に珍しいと、同動物園の保全・科学ディレクターであるクリステン・ルーカス氏は言う。

「フレディはジャミーラを見てすぐに抱きとりました。カイェンベを見たときもそうでしたが、今回は、背中にカイェンベを乗せていたのに、さらにジャミーラを抱きとったのです」

 フレディの行動は、霊長類の適応性と柔軟性を示す感動的な例と言うのは、米ノースカロライナ動物園保全・教育・科学部門のリッチ・バーグル氏だ。

「フレドリカは、動物が秘めている可能性を私たちに見せてくれました。動物は、ものを食べて子どもを産んで死んでゆくだけの機械ではありません」と、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)で、野生と飼育下のニシローランドゴリラを研究しているバーグル氏は言う。「彼らには私たち人間と同じような個性があり、予期せぬ変化に適応する能力を持っているのです」

 カイェンべがフレディの乳汁を飲んでいることに最初に気づいたのは、動物園の准動物学芸員であるローラ・クラッツ氏だった。フレディの乳房に白いしずくがついており、実際に乳汁を確認できた。

 カイェンベが頻繁に乳を吸っていたため、フレディの体内で乳汁を作るプロラクチンというホルモンの分泌が促進されたようだ。「誘起泌乳」と呼ばれるこの現象は人間にもあり、授乳するためにホルモン剤を服用する人で見られる。

 霊長類飼育チームは、高齢のフレディの乳汁では栄養が足りないのではないかと心配し、米スミソニアン国立動物園で動物の乳汁の成分を研究しているマイケル・パワー氏に乳汁を分析してもらった。

 その結果、フレディの乳汁はカロリーの点でも栄養素の点でもまったく問題ないことが明らかになった。「私たちの知るかぎり、この年齢のメスの代理授乳が確認されたのはこれが初めてです」とルーカス氏は言う。

 フレディに誘起泌乳が起きたのは、母親としての長年の経験によるものだとパワー氏は言う。

「彼女は何度も出産しているので、何をすべきか分かっています。経験豊富なアスリートの筋肉は、体の動かし方を記憶しています。同様に、フレディの脳と体は子育てモードに戻る方法を知っているのです。最初に絆を育むオキシトシンが分泌され、続いて、母乳を出すプロラクチンが分泌されたのでしょう。フレディは母親なのだと思います。彼女はそういうゴリラなのです」

 フレディの授乳は、ゴリラには人間のような閉経がないことで説明できるかもしれないと、米南カリフォルニア大学の生物科学教授であるクレイグ・スタンフォード氏は指摘する。

「ヒトは、生殖器系だけ先に老化させる閉経というしくみを進化させましたが、私たちの親戚である類人猿の生殖器系は、ほかの部位と同じペースでしか老化しません」