軽度認知障害の改善 「頭の中のモヤモヤが晴れる」トレーニングとは…認知症予防に向けて心がけたい生活習慣

AI要約

軽度認知障害(MCI)の高齢者が増加する中、認知症予防の取り組みが進んでいる。

和光病院では、脳トレーニングプログラム「メモリーワーク」が認知症予防に効果的であることを実証している。

早めの気づきと適切な対応が認知症の進行を抑え、健常な状態に戻る可能性もある。

 認知症になる手前の段階とされる軽度認知障害(MCI)の高齢者は来年、65歳以上のほぼ6人に1人にあたる564万人に――。国の研究チームが5月に将来推計を公表した。認知症予防への関心が高まる中、頭と体のトレーニングや生活習慣の見直しといった取り組みが進んでいる。(野島正徳)

 「これは左の角に置いたらどうだろう?」「うーん……。もっと右では」

 埼玉県和光市の和光病院の一室で5月22日、70~80歳代の男女10人が、三つのテーブルに分かれ、パズルの完成を目指して話し合っていた。「もの忘れが多くなった」といった自覚症状で受診し、軽度認知障害と診断された人たちだ。

 パズルは、認知症診療を専門とする同病院が、脳の活性化のために開発したトレーニング「メモリーワーク」の課題の一つ。早口言葉や足し算、引き算などの計算、「赤上げて、白上げないで……」という掛け声に合わせて手旗を上げ下げする――といった約10の課題がある。毎週1回、1時間で全12回のコースだ。

 指導する公認心理師の佐野保(たもつ)さん(42)は「計算などの情報処理や、瞬時の判断が求められる動作を反復することで、注意力や集中力を鍛えることができる」と説明する。

 参加者からは「頭の中のモヤモヤが晴れる」「仲間と楽しく過ごせる」との声が聞かれるという。70歳代の女性は「もの忘れをするようになったが、今の状態よりも衰えないように頑張りたい」と笑顔で語った。

 今井幸充(ゆきみち)院長(73)は「メモリーワークは、認知症に進行するのを抑える効果が期待できる。続けることで、安心して希望を持って生きてほしい」と話す。

 軽度認知障害は、記憶力や判断力などの認知機能がやや低下しているが、日常生活に支障はなく、自立して暮らせている状態だ。認知症ではないが、健常とも言えず、両者の「中間のような状態」とされている。

 これまでの研究で、早めに気づいて認知症予防に取り組めば進行を抑えられることや、中には健常な状態に戻る人もいることが分かっている。

 受診のきっかけは多くの場合、もの忘れを本人が自覚したり、家族が気づいたりしたことだという。認知症の専門外来で、「きょうの日付」「今いる場所」などを答えるテストや、脳の状態を確かめるMRI(磁気共鳴画像)検査を受ける。

 今井院長によると、日常生活に支障が出ているかどうかが診断の最大のポイントで、「持病の薬を忘れずに飲んでいるか、買い物がきちんとできるか、本人や家族から丁寧に聞き取って探る」という。

 厚生労働省の研究チームが5月に発表した推計によると、認知症の高齢者は2022年に443万人で、25年に471万人、40年に584万人になる。軽度認知障害については、22年に558万人で、25年に564万人、40年には612万人になると推計した。