社説:兵庫知事に不信任 議会解散せず辞職の決断を

AI要約

内部告発によるパワハラ疑惑で兵庫県知事斎藤元彦に不信任決議が可決され、辞職・失職か議会解散かの選択を迫られている。

斎藤氏の初動対応や公益通報制度の軽視が問題となっており、疑惑の真相究明と再発防止が求められている。

斎藤氏の進退判断にかかわらず、疑惑は解明すべきであり、不適切行為については責任を取る必要がある。

 パワハラなどの疑惑で内部告発された斎藤元彦兵庫県知事の不信任決議を、県議会が全会一致で可決した。

 10日以内に辞職・失職か議会解散かの選択を迫られる。斎藤氏は「結果責任は重い。しっかり考えて決断する」と態度を明らかにしていない。しかし、もはや県政の停滞を打開するには、自らが身を引くしかなかろう。

 問題の核心は、告発文書を公益通報として扱わず、作成者の特定を指示するなどした斎藤氏の初動対応にある。

 県の幹部職員は3月、斎藤氏の疑惑を告発する文書を報道機関などに送り、4月には県の公益通報窓口にも通報した。

 だが県は幹部を保護対象とせず、公益通報の調査結果を待たずに停職処分とした。県議会は疑惑を解明する調査特別委員会(百条委員会)を設置したが、幹部は委員会証言を前に7月に亡くなった。自死とみられる。

 百条委では斎藤氏のパワハラや贈答品受領などの疑惑が次々と明らかになり、本人も机をたたくなど一部の行為を認めた。

 一方、斎藤氏らの振る舞いは公益通報者保護法違反に当たるとした専門家の見解には、処分は「適切だった」と主張。「道義的責任が何か分からない」と述べた。知事としての適性に疑問を抱かざるを得ない。

 不信任決議にも「県政を前に進めたい気持ちに変わりない」と強調したが、その考えはどれほど県民の理解を得られるだろうか。神戸新聞社が7月下旬に行った世論調査でも、斎藤氏の支持率は15%にとどまった。

 日本の地方自治は二元代表制で、首長と議会は「車の両輪」に例えられる。知事不信任決議の可決は全国5例目で、過去に議会を解散したケースはない。

 1976年の岐阜県と2006年の宮崎県では知事が辞職を選択。02年の長野県と03年の徳島県では知事が失職後、出直し選挙に臨んだが、再選されたのは「脱ダム」を訴えた長野県の田中康夫氏だけだ。

 斎藤氏は議会解散の選択肢も否定しないが、不信任の理由が政策の是非でなく、知事の不適切行為や資質である以上、県議会を解散して問うべき「大義」は見いだせない。

 道理の通らぬ解散を強行しても、改選後の議会で再び不信任決議が突き付けられて自動失職する可能性が高い。進退は窮まったといえよう。

 県議会の側でも、百条委員会の設置に当初反対した維新と公明の責任は否めない。調査途上の不信任案提出には、早期の衆院解散が浮上する中、各会派の政治的な思惑も透ける。

 斎藤氏の進退判断にかかわらず、解明すべき疑惑は山積している。公益通報制度の軽視は組織的な問題であり、告発内容には補助金の不正支出疑惑も含まれる。真相究明と再発防止を棚上げにしてはならない。