新人警察官の伝統「金華山早駆け」初回1937年、不撓不屈の精神養う タイム歴代1位は11分18秒

AI要約

金華山早駆け競走は、岐阜県警の新人警察官・職員が挑む伝統行事で、警察官としての気力・体力の錬成と精神力の養成を目的としている。

初めて開催されたのは1937年であり、今もなお続くこの行事は、警察官の登竜門として位置づけられている。

コースは全長約1.8キロで標高差約300メートルの七曲り登山道を走り抜ける。多くの新人警察官たちが参加し、過去の記録を更新する意欲を持って挑んでいる。

新人警察官の伝統「金華山早駆け」初回1937年、不撓不屈の精神養う タイム歴代1位は11分18秒

 岐阜県警の新人警察官・職員の誰もが採用直後に挑む伝統行事がある。金華山(岐阜市)を舞台に、頂上の岐阜城を目指し力走する「金華山早駆け競走」。体力と精神力を養おうと、戦前から続く。警察官の登竜門とされる行事の歴史や経緯を探った。

 「山を走って登る経験はなかなかない。時には同期生で励まし合って登り、一人の警察官として成長できるのではないか」。県警察学校の髙橋徹也副校長は、こう意義を語る。第1回が開催されたのは1937年。戦争で中断もあったが、新人警察官・職員が門をたたく4月のほか、秋採用があれば10月にも実施されてきた。

 今年の4月で146回を数え、警察官としての気力・体力の錬成と、不撓不屈(ふとうふくつ)の精神を養うことを目的としている。62年に拝命し、同期でトップを走ったOBの中村東さん(84)は「当時は160万県民で、警察官は1600人。丈夫な体をつくり、1人で千人を守る教育を受けていた」と述懐する。

 スタート地点は、金華山麓の県歴史資料館前(岐阜市夕陽丘)。現在は関市希望ケ丘町にある警察学校が、かつて県歴史資料館の場所にあった。36年12月に夕陽丘に移転しており、翌年から早駆け競走が始まったというのが有力な説だ。

 「山頂を目指して自由に走れと言われていた」と明かすのは、約30年前の93年に拝命した髙橋副校長。「登山道を走った方が速い」と付け加えるが、中には抜け道を駆け上がる初任科生もいたとか。現在は、山の保護も考慮し、全長約1・8キロ、標高差約300メートルの七曲り登山道を走り抜ける。

 学校には記録簿があり、毎年、優勝者の名前が書き加えられている。男子の歴代1位は、榎谷太一さん(41)が2005年にマークした11分18秒。現在は県警本部留置管理課の巡査部長で、音楽隊のボーカルとしても活躍している。地元のクラブチームで健脚を磨いてハーフマラソンにも出場してきたが、「(早駆けが)それまでで一番きつかった」と振り返る。

 6月下旬、コースの七曲り登山道を訪れてみた。序盤は緩やかな道が続いたが、その後は段差の大きな階段が立ちはだかり、急できつい。曇り空だったが、少し歩いただけで息は苦しくなり、額に汗がにじんだ。登山道は木に覆われており、頂上がなかなか見えない。黙々と登り、ロープウェー乗り場が近づいて景色がようやく開けた。

 「止まったら終わりだと思って、歩かないことを意識していた。足が動かなくなるし、自分との戦いだった」と榎谷さん。「警察官としての原点。自信になり、歴代トップの肩書に見合う警察官にならないといけない気持ちがある」と打ち明け、「これから記録を更新する人にも(その気持ちを)持ってほしい」と願う。

 ちなみに今年4月の平均タイムは、男子は大卒の短期課程生が19分55秒、大卒以外の長期課程生は18分46秒。女子は短期生が23分41秒、長期生は23分06秒だった。平均タイムは、昔から大きく変わっていないという。

 岐阜市のホームページによると、七曲り登山道は初心者向けのコースとされ、所要時間は約1時間。山歩きを楽しむ人も多いだろう。新人警察官たちが気力を振り絞って駆け抜けている姿を想像しながら登ってみては-。