麻痺しているところが痛い? 脳卒中後痛(視床痛) 痛み学入門講座

AI要約

脳卒中(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞を合わせた総称)後に残る半身麻痺が「脳卒中後痛」と呼ばれる痛みを引き起こすことがある。

脳卒中後痛は感覚が低下している部位に持続的な痛みや激烈な発作痛をもたらすが、一部の症例では治療効果が期待できる場合もある。

治療には、抗うつ薬や抗てんかん薬、脊髄刺激療法などの薬物療法や非薬物療法が用いられる。

脳卒中(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞を合わせた総称)発症後、ダメージを受けた脳の反対側の半身麻痺(まひ)が残ってしまった場合、麻痺が起こっている部位に痛みを感じ続けることがある。この痛みが「脳卒中後痛」である。1960~70年代、脳卒中は、わが国での死亡原因の第1位であった。その後、医療技術の進歩によって脳卒中による死亡率は低下したものの、脳卒中後痛に関する医学的報告は、むしろ増えているのだ。

1906年、視床(ししょう)(手足など末梢(まっしょう)からの感覚情報の中継点)での出血後に、麻痺とともに耐え難い持続痛や発作痛が起こることが確認され、「視床痛」という呼び名を与えられた。しかし、その後、この痛みは視床のみではなく、大脳皮質、脳幹の出血や梗塞後にも起こることが明らかにされたのだ。

脳卒中後痛では、感覚が低下している部位に「ジンジンとした」「灼(や)けるような」「裂かれるような」痛みが持続する。さらには、感情の変化やストレス、通常は痛みを引き起こさない程度の刺激(例えば、服がこすれるなど)などによって激烈な発作痛(アロディニアと呼ぶ)を誘発することもある。脳卒中後に、これらの痛みを生じるまでには通常、数週間から数カ月を要するが、脳梗塞に比べて脳出血による場合の方がこの期間は短い。

外部からのさまざまな情報は、末梢の受け皿(末梢神経の末端に露出している受容器)→脊髄→視床を経由して、大脳皮質へと届けられる。「求心路」と呼ぶこの経路のいずれかの部位の問題によって、情報の伝達機能が遮断されると、その後に激しい痛みを生じることがある。

これらを「求心路遮断痛」と呼んでいる。脳卒中後痛の他に、「腕神経叢(わんしんけいそう)引き抜き損傷後の痛み」「幻肢痛」「脊髄損傷後痛」などもこの仲間である。

脳卒中後痛に対する治療では、いわゆる鎮痛薬を漫然(まんぜん)とそれも長期間にわたって処方するべきではない。鎮痛薬ではなく、まずは抗うつ薬や抗てんかん薬、抗不安薬などの鎮痛補助薬の処方を試してみるべきである。

ペインクリニックでは、星状(せいじょう)神経節ブロックや、脊髄刺激療法(背骨のなかにある硬膜外腔と呼ばれる空間に専用の電極を植え込んで電気刺激を行う)を施している。私は、この脊髄刺激療法によって、末梢神経~脊髄までの損傷による求心路遮断痛では良好な治療効果を得ること、また、より上位の脳の損傷による痛みであっても、首の上方(第2~3番目の頚椎の高さ)に電極先端を置くことで、良い結果に結びつくことを確認している。