輸血用を上回る薬剤用 ~知られていない献血血液の役割~

AI要約

献血で得られた血液は、輸血用として使われるだけでなく、神経免疫疾患などの治療に有効な血漿分画製剤にも利用されている。

日本赤十字社や各製造会社は、若年層の献血減少により将来的な血液確保の重要性を訴えている。

神経免疫疾患の一つCIDPについての説明や治療に使用される免疫グロブリン製剤についても触れられている。

輸血用を上回る薬剤用 ~知られていない献血血液の役割~

 献血で得られた血液は、主に事故による大量出血や手術の時に輸血用として使われる輸血用血液製剤になるイメージが強い。しかし、献血血液の血漿(けっしょう)から、神経免疫疾患などの治療に有効な「血漿分画製剤」も造られていることはあまり知られていない。割合は、血漿分画製剤用が輸血用を上回る。問題は、30代以下の若年層で献血する人が減っていることだ。血液事業を担う日本赤十字社や治療薬の効果を知る医師らは、将来的に献血血液を安定的に確保する重要性を訴えている。

 献血には、全血献血と成分(血漿と血小板)献血の2種類がある。輸血用血液製剤は全血製剤、赤血球製剤、血漿製剤、血小板製剤の四つがあり、患者の症状に合わせて使用されている。

 一方、血漿を治療に必要な成分ごとに分けて精製したのが血漿分画製剤だ。神経疾患や重度の感染症、川崎病などに用いる免疫グロブリン製剤、やけどやショックなどに使用するアルブミン製剤、血友病などに用いる血液凝固因子製剤がある。日本赤十字社から年間約120万リットルの原料血漿の供給を受け、一般社団法人日本血液製剤機構、KMバイオロジクス、武田薬品工業の3社が製造に当たっている。

 日本赤十字社血液事業本部の辻本芳輝・広報係長によると、献血血液の用途は輸血用製剤が45.3%、血漿分画製剤が54.7%(2023年度事業計画)となっている。この事実に驚く人は少なくないだろう。辻本係長は「献血は患者の命を救うために健康な人が善意で血液を無償で提供するボランティア活動だ」と話す。

 神経免疫疾患は免疫の異常によって、脳など中枢神経、末梢神経、筋肉などに炎症が起きる病気だ。慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)や重症筋無力症、ギラン・バレー症候群などがある。

 千葉大学大学院の三澤園子准教授(脳神経内科学)はCIDPについて、「神経の役割は細胞体からつながる軸索を通じて末梢に情報を伝達することだ。軸索を囲む髄鞘(ずいしょう)に炎症が生じ、情報伝達がブロックされ、筋力低下などが起きると考えられている」と説明する。電気コードの絶縁体が損傷し、電流が流れなくなる状態に似ている。

 推定患者数は約4180人で、末梢神経の炎症によって手足がしびれたり、筋力の低下を引き起こしたりする。はしが使いづらい、歩きにくい、洗髪の際に腕が上がらない―といった生活の質(QOL)に大きく影響する。2024年に改定された診療ガイドラインでは、治療開始時に加え、改善した状態を長期的に保つ「維持療法」にも免疫グロブリン製剤が有力な選択肢とされている。