家族の顔も見分けがつかなくなった母 それでも見事な手さばきで、周囲を驚かす技とは
認知症が進行しても、体が覚えた能力は比較的残ることがある。
介護者は、動作の起点や間をサポートすることで、本人の自立を促すことができる。
介護者は本人のできることを奪わず、尊重することが重要である。
介護の現場で出会った人から「幸せになる方法」を教わった、と語る介護福祉士でイラストレーターの高橋恵子さん。今度はあなたに、イラストと言葉でメッセージを届けます。
「認知症がだいぶ進んで、家族の顔も見分けがつかなくなった母なのに、
台所の包丁さばきは、いまだに見事なの!」
そんな話をどなたでも聞いたことがあるのではないでしょうか?
つまり、認知症が進んでも体が覚えた動きや能力は、
比較的、残っているものなのです。
だから例えば、電気シェーバーを持って立ちつくす認知症がある人を前にした時、
「この人は、ひとりでひげも剃れなくなってしまったのか」と決めつけて、
ひげ剃りのすべてを手伝ってしまうのは、明らかに早とちりです。
電気シェーバーのスイッチが見えづらい、
なんの道具か判断がつかない、など、
本人が困っている理由を介護する人と共有できて、解決できればいいのですが、
実際にはわからない時も多いもの。
そんな時は、ご本人の動作の一部を介助して、
次の動作へ促してあげる方法が有益です。
介護者が、動作の起点やあいだをちょっとサポートすれば、
衣服の脱ぎ着や入浴時に体を洗う時にも、止まってしまった動きを、
自分から自然に再開できることはよくあることです。
「ご本人のできることを、介護者が奪わない」
それは、私が訪問介護ヘルパーをしている時に耳にたこができるほど、
先輩ヘルパーに言われてきた、鉄則です。
それもそのはず、体に残るほど培われてきた動作や能力は、
その人のかけがえのない歴史であり、財産です。
最後まで、大切にしていきたいものです。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》