JR東海から突然720万円の請求書! 2007年「認知症鉄道事故」から考える超高齢化社会の行方、いまや認知症行方不明者は年1万9000人という辛らつ現実

AI要約

2025年までに高齢者の5人に1人が認知症になることが推計されており、認知症の人のひとり歩きが地域の交通安全に関わる問題である。

神戸市のように認知症の人の事故を補償する民間保険に加入している自治体もあり、なぜ一部の自治体しかこのサービスを提供していないのかが疑問である。

2007年12月の認知症鉄道事故裁判がきっかけとなり、認知症と介護の現実を巡る法廷闘争が行われたが、最終的に最高裁は監督責任を否定する判決を下した。

JR東海から突然720万円の請求書! 2007年「認知症鉄道事故」から考える超高齢化社会の行方、いまや認知症行方不明者は年1万9000人という辛らつ現実

 日本では2025年までに高齢者の5人にひとりが認知症になると推計されており、その対策が急がれている(約700万人)。

 認知症の人のひとり歩きは、地域の交通安全に関わる。過去には電車事故が起き、同居の家族と離れて暮らす長男を相手取り、720万円の損害賠償請求訴訟が起こされたこともある。

 その結果、最高裁は「同居家族は高齢であり、長男は離れて暮らす。よって、家族の監督義務はなし」として、長男は責任を免れた。ただ、公共交通も損害を被っている。認知症との共生社会を前に、どこに賠償責任を求めればいいのかわからない。

 そこで、神戸市のように認知症の人の事故を補償する民間保険に加入している自治体もある。一定の条件を満たせば、自治体が補償保険料を負担するため、条件さえ整えば実質的に無料で賠償保険を利用できる。

 しかし、なぜ一部の自治体しかこのサービスを提供していないのだろうか。国は対策を講じているのだろうか。

 認知症のひとり歩き問題がクローズアップされたのは、2007(平成19)年12月に起きた認知症鉄道事故裁判がきっかけだった。当時91歳の男性(愛知県在住、要介護4)が認知症と診断され、ひとり歩きした結果、JR東海の列車事故で死亡した。

 その後、JR東海は遺族に約720万円の損害賠償を請求し、8年にわたる法廷闘争が繰り広げられた。一審判決が「全額支払命令」というものだったのだから、遺族はさぞ憤慨したことだろう。

 世論の反響はすさまじく、この判断をよしとしなかった。世論も専門家も、裁判所が認知症介護の現実を理解していないと憤慨した。二審判決は、妻の過失が考慮され、「半額の賠償責任」が下された。遺族は当然納得せず、最高裁に上告した。8年にわたる法廷闘争の末、最高裁は遺族に「総合的な状況から考え、監督責任は無し」との判決を下した。

 遺族の監督状況として、どのような措置がとられたのかを振り返る。平日は高齢の妻が介護保険サービスを利用しながらひとりで支え、長男は遠方に住んでいて週末しか手伝えなかった。主要な出入り口にはセンターを設置し、なるべく抑制せずに介護していた。

 献身的な介護者であることは断言できる。高齢の妻と遠くに住む長男に責任を負わせようと思えば、夫を縛っておくしかないという声さえあった。最高裁の判決を受け、厚生労働省のワーキンググループ内の有識者見解でも「例外的な場合を除いて、認知症の人のひとり歩きに対し、家族は監督責任を問わないことが示された」とされている。

 一方、JR東海側も被害を受けているため、「被害者救済」の観点からの検討も必要だ。もちろん、認知症の人が線路に立ち入らないような対策は必要だが、費用もかかる。

 路線を維持するだけでも大変なのに、私鉄は認知症の人が線路内をひとりで歩かないようにするために、多額の保険金と設備投資で対応しなければならないのは、難しい。

 反響の大きいことの「責任」と「対策」についても国会で議論された。政府は裁判にどう対応し、責任能力のない人の列車事故にどう対応したのか、見てみよう。