坂口恭平は「現代の福沢諭吉」 政治不信の中で読みたい本

AI要約

東京大学先端科学技術研究センター教授の牧原出さんが選ぶ、「日本の政治に絶望している人に読んでほしい本」について紹介。自民党の衰退や政権交代の可能性、政治資金問題について言及。

政治を根本から捉え直す必要性と政治家に特権が許されることへの疑問。対応次第で自民党の未来が変わる可能性を指摘。

福沢諭吉と坂口恭平の生き様から、めげない人の重要性を指摘。政治というものを築き直していく必要性を強調。

坂口恭平は「現代の福沢諭吉」 政治不信の中で読みたい本

政治学者で、東京大学先端科学技術研究センター教授の牧原出さんが選ぶ、「日本の政治に絶望している人に読んでほしい本」1回目は『新訂 福翁自伝』(福沢諭吉著/岩波文庫)と『独立国家のつくりかた』(坂口恭平著/講談社現代新書)。今の政治状況を見る限り、自民党の衰退は続き、政権交代の可能性が高まるだろう。政治というものを一から捉え直すために、まずこの2冊を読んでみたい。

●政治を根本から捉え直す

 2024年は台湾総統選挙、欧州議会選挙、米国大統領選挙など、世界各国で大きな選挙が行われる選挙イヤーです。日本国内では、内閣の解散があれば年内にも、任期満了となっても来年10月までに衆議院総選挙が行われます。

 日本では自民党の政治資金パーティーによる裏金問題や議員の不祥事などで、「もう政治に希望を持てない」「何も期待しない」という人が多いかと思います。

 今回の自民党派閥の裏金問題について、国民が何に一番いらだっているかといえば、「政治家にだけ特権が許されること」だと思います。この裏金をそのまま手元に置いているだけならば脱税です。店に行けば、消費税を支払っていることを私たちは毎回実感します。なぜ政治家だけが、政治に必要な資金だからといって税金を払わないですむのでしょうか。誰もが「それはおかしい」と気づいてしまいました。

 もし岸田文雄政権が、政治改革によって政治資金の流れを透明化できれば、次回の衆議院総選挙で自民党は大きく負けないかもしれません。しかし、中長期で見れば、自民党の力の源泉であった政治資金を使えなくなるわけですから、衰退へ向かうのは必至です。

 このまま中途半端な対応が続けば、「自民党には投票しない」「自民党も野党も大差ないなら、野党に投票するか」という人が増えるでしょう。そうなれば野党が手を組んで政権交代が起きる可能性もあると思います。

 もちろん、自民党には政策能力や経験値のある議員がたくさんいます。しかし、誰が首相になっても、もう自民一強のような時代はやって来ないでしょう。当面は経済が回復する中で、現政権は「あまり大きな手を打たない」選択をして、支持率がじわじわ低下していくというシナリオが一番あり得るのではないかと思います。

●キーワードは「めげない人」

 そんな今は、日本の政治を根本的に考え直すときに来ていると感じます。キーワードとなるのが「めげない人」です。くじけずに政治に立ち向かった人たちの本6冊を選んでみました。

 1回目で紹介するのは、『』(福沢諭吉著/岩波文庫)と『』(坂口恭平著/講談社現代新書)の2冊です。

 この2人は政治家ではなく、在野の知の人です。個人、市民として、一から政治というものを構想し、実践しています。『福翁自伝』を読むと、福沢諭吉は子どもの頃から手先が器用で、障子の張り替えや雨漏りの修繕などもお手の物でした。自分の手でリアルにモノをつくりあげていく、わが道を切り開いていく、まさに独立自尊、世間の風潮に流されず、机上の理論を上書きする強さが、その後の人生でも貫かれます。

 とりわけ若い頃の話が面白いです。オランダ語を学んだのはいいが、これからの世界は英語が大事だと知ると、臨機応変に英語に転じる。大阪の適塾では、大酒のみの塾長として学びの場を率いていく。東京・三田にあった肥前島原藩の空き屋敷を借り上げ、日本初の私立大学となる慶應義塾を設立する。上野の山に砲弾が飛び交う際にも、変わらずに塾を続けるエピソードは圧巻です。実学がベースですが、福沢は政治に関心を持ち、封建社会の打破を訴え、国会開設を主張し、在野の側から新しい憲法と国のかたちを主張していきます。

 そんな福沢諭吉の現代版ともいえるのが、坂口恭平さんです。坂口さんの肩書は一言では言えません。大学は建築学科を出ましたが、特に建築らしい建築作品はつくっていません。街頭で演奏をするのでミュージシャンでもあり、本を出しているので作家でもあり、アーティストでもあります。