漫画制作を爆速化! 生成AIをフル活用して時短してみた

AI要約

AIを使用して漫画制作の効率化を試みる実験が行われ、その過程が詳細に報告されている。

AIを活用した漫画制作において、効率的なスケジュール管理やネーム作成、AIモデルの選定方法などが紹介されている。

最速での漫画製作を行いながら、AIを上手く活用するポイントや課題が明らかにされている。

漫画制作を爆速化! 生成AIをフル活用して時短してみた

今回のテーマは「AIで漫画を作ると、どのくらい時短できるのか」です。はたしてAIを使用する事で、どのくらい時短が可能なのか? 今回は今までの実験で培った技術をフルに使い、タイムアタックに挑戦します。

 こんにちは、漫画界の生き恥こと野火城と申します。

 

 「画像AI使ってみた/AI漫画実験企画」第4回です!

 

■第1回はこちら 体験して見えた、その実力と課題!!

■第2回はこちら AIで今風の手描きっぽい漫画を作ってみる

■第3回はこちら 生成AIで少女漫画に挑戦!

 

 その成り立ちから様々な議論を呼んでいる画像生成AIですが、少なくとも2024年7月現在日本の法律では使用が許可されており、存在を完全に無視する事はできません。かといって全てを肯定して受け入れるのも難しい。

 

 だからこそ、必要以上に恐れず、実際にどのような事が出来るのか、具体的に検証する――それが画像AIとの誠実な向き合い方なのではないでしょうか。

 

「画像AIの技術がすごいという賞賛記事はよく見るが、それは本当に創作活動で実戦的に使えるものなのか? 『AIに仕事を奪われる』と『今のAIは実戦では使い物にならない』という真逆の意見を多数見るが、この二つは両立しないのでは? 実際はどっちなんだ?」

「画像AIを試してみたいけど難しそうだし、使い方を覚えるような余裕もない」

「使用した時のリスクがよくわからなくて怖い」

 

 などなど、巷に溢れる画像AIの様々な評価への疑念を明らかにするべく、筆者が体を張って挑戦した実録レポートです。同じ疑念を持つ皆様への参考になるよう頑張ります。

 

 前回は「特定の絵を追加学習したものでなく、加筆や加工のみで作る調整LoRAだけで少女漫画風AI漫画が作れるか」をやりました。

 

 今回のテーマは「AIで漫画を作ると、どのくらい時短できるのか」です。

 

 実際に漫画にAIを活用するとすれば、主な目的は「効率化」でしょう。果たしてAIを使用する事で、どのくらい時短が可能なのか? 今回は今までの実験で培った技術をフルに使い、タイムアタックに挑戦します。

 

 まずは漫画をお読みください。

 

「浦AI(あい)太郎」第4話 シニアテックロマンス~玉手箱の罠~

作:野火城(with Generative AI)

※本作品の制作には生成AIを使用しています。

 

(次ページ:生成AI漫画の制作過程を解説)

 

1/時間配分をスケジューリングする

 時短した時こそ、まずスケジュールを決めるといいです。今回は以下の計画で動く予定でした。

 

・月曜/ネーム作業(1日)

・火~木曜/AI原稿製作(3日)

・金曜/記事執筆(1日)

 

 タイムアタックと言っても実際出来なかったら困るので、今までの制作日程を見返し、何かトラブルがあってもいけそうな余裕のあるスケジュールを立てました。完璧ですね。

 

 そして月曜の昼に編集さんからこんなメールが来ました(※掲載許可済み)

 

「大変申し訳ありません!

 週アス掲載分の校了日を来週だと思って進めていたのですが、木曜だったようで、原稿を12日に頂く形だと間に合わない可能性が出てきました。

 漫画原稿・記事原稿を水曜(難しければ木曜昼)にいただくことは可能でしょうか」

 

 おもしれー編集。

 

 突然の〆切前倒しにも対応できる! そう、AIならね。

 

 嘘です。AIでもこの状況なら普通は落とします! これからAI導入する予定の企業の方も、AIだからと言って何でも解決すると思わないでください! AI使った所で作業するのは人間です!!

 

 ですが今回については、企画趣旨的に状況含めて面白いのでOKしました。むしろちょっと美味しいなと思ったのは内緒です。1回目ですしね。2回目以降はRTX 4090搭載のBTO PCで手を打ちますのでよろしくお願い致します。

 

 そんなわけで、原稿作業が3日1.5日に短縮されました。計らずともタイムアタック開始です。

 

2/ネームには絵を入れず、セリフ+コマ割りのみ作る

 AI漫画で時短する場合、ネームはこのようなセリフ+コマ割りのみで作ります。

 

 単純に下絵を描いた方が時間がかかるのもありますが、下絵を入れてしまうとその構図に完璧に合う絵を入れたくなり、気持ち的な面でもAIガチャの難易度が上がってしまいます。どんな絵が入るかはふんわり考えておいて、そのコマのシチュエーションに近い絵が出たら当てはめる、という方法が一番早いです。「完成した絵でネームを作る」イメージですね。

 

 ネームが完成したのが月曜夜。結局ネームも数時間で作りました。いつもはもう少し時間をかけてるのでネームもちょっと荒いですが、とりあえずここまでは当初の予定通りです。

 

3/AIモデルの選定

 2024年7月現在、プロンプトの通りが一番良いのは間違いなくDALL-E3(GPT4)です。他の画像AIより頭一つ抜けてます。時短で漫画を作るなら、DALL-E3は外せないでしょう。

 

 今までの経験から、時短をするならDALL-E3で元絵を作り、自分でマージした商用可能ライセンスのSDXLアニメ+リアル系白黒線画向きAIモデル+自分絵LoRAでi2iして画風を整える、の流れが一番早いです。今回はこれでいきます。

 

(次ページ:生成AIで漫画制作を極限まで効率化!)

 

4/DALL-E3で基本の絵作り

 前後のキャラの立ち位置の整合性なども考えて1コマずつ生成するので、特にこういう日常シーンが大変でした。1コマ目はポン出しで上手くいかなかったので、おばあさんとおじいさんと背景全て別で生成したものを合成してます。3コマ目も、おじいさんと手前の手は別のAI絵を切り張りしました。

 

 この作業が全ページ終わったのは水曜の朝。作業時間は13Pで約1日です。

 

 自分のギャグ漫画はAI絵との親和性が高く、むしろAIっぽい絵であればあるほど面白みが増す傾向があるので、もうここで完成でいいのでは?と思いましたが、「AI実験」でただポン出し切り張り絵を並べた漫画作ってもなという事で、ここから更にSDXLで画風を整えていきます。

 

5/CN-anytest_v4-margedを使い、i2iで画風を整える

 おじいさんの外見+白黒化のプロンプトを固定し、元絵をSDXLコントロールネッ「トCN-anytest_v4-marged」に入れ、コマごとにi2iしていきます。そのコマごとにシチュエーションプロンプトを作って補強しないとブレますが、ちょっと補強するだけで、このようにほぼ元絵のまま画風だけ変更してくれます。ガチャもほぼいりません。大体3枚生成してその中から選んだり、良いところだけ切り抜いて他と合成したり。

 

 CN-anytest_v4-margedやi2iの数値は絵によって適時変更しています。CN-anytest_v4-margedのWeightは0.5~0.9、i2iのDenoising strengthは0.5~0.9くらいで生成しました。

 

6/破綻やキャラ外見を加筆、仕上げして完成

 今回ちょっと面倒だったのが、キャラの基本トーンです。

 

 DALL-E3では着物の色の統一が難しい&特有のモアレのような模様が入るため、クリスタで前処理をしないと綺麗にならないのですが、時間がなかったので飛ばしてしまい、後から手動で貼るはめになりました。今回特に時間もなかったので結構ヌケも多いと思います。この辺を丁寧にやるには、やはり時間と人力が必要になってきますね。

 

 昼から始めて、他の用事もあったので離席しつつ、水曜夜には完成しました。SDXLでの画風調整&仕上げにかかった作業は、13Pで計4~6時間くらいです。

 

 これにて原稿作業は終了です。

 

(次ページ:生成AIに漫画を評価してもらう)

 

7/Claude-3.5-Sonnetに今回の漫画を評価してもらう

 前回はGPT4oでしたが、今回はClaude-3.5-Sonnetに評価を頼んでみました。

 

読者が魅力に感じる部分:

 独特な設定:高齢者キャラクターとAI技術の組み合わせが斬新で面白い。

 ビジュアル:詳細な線画と表情豊かなキャラクターデザインが印象的。

 ユーモア:世代間ギャップやAIの誤解から生まれるコメディ要素。

 テクノロジーの融合:伝統的な日本文化とモダンなテクノロジーの対比。

 

読者がわかりにくいと思う部分:

 ストーリーの連続性:各コマの繋がりが不明確で、全体のストーリーラインが把握しづらい。

 専門用語:AI関連の用語や概念が一般読者には難しい可能性がある。

 キャラクターの背景:登場人物の関係性や背景が十分に説明されていない。

 

改善のための具体例:

 ストーリーの導入部分を追加し、設定やキャラクターの関係性を明確にする。

 AI関連の用語に簡単な解説を付け加える。

 キャラクターの行動や対話を通じて、彼らの個性や背景をより深く描写する。

 

評価(10点満点):

 キャラクター:8点(個性的で魅力的だが、背景説明が不足)

 ストーリー:6点(面白い要素はあるが、連続性に欠ける)

 世界観:9点(伝統とテクノロジーの融合が独特で魅力的)

 アートワーク:9点(細部まで丁寧な描写と表現力豊かな絵柄)

 

総合評価:8点

 この漫画は、独創的な設定と魅力的なビジュアルで読者を引き付けます。しかし、ストーリーの流れをより明確にし、キャラクターの背景を深めることで、さらに魅力的な作品になる可能性があります。AIと人間の関係性を探る興味深いテーマを持ちながら、ユーモアも交えた展開は、多くの読者を惹きつける要素となっています。

 

 だそうです。

 

 いかがでしょう。貴方の評価とは合ってますか?

 

 今回ネームが荒いのが一番の反省点だったのですが、やはりそこの評価が厳しめになっているなと。自分の体感とはわりと合っています。

 

(次ページ:全13Pを最短で作ってみた感想)

 

今回の全13Pの製作時間

 自分が思う現在の最速のやり方で制作してみましたが、13Pで1.5~2日かかりました。ただDALL-E3のみで終わっていいのであれば1日です。趣味の漫画ならそのクオリティで十分なので、13Pでも1日あれば十分いけます。

 

 同じ方法で作った中で今までの最速は23P10時間、1P20~30分です。しかしやはり、このやり方だと「いかにもAI」な漫画にしかなりません。印刷できるレベルで手描きと同様のクオリティを求めるなら、自分は今のところ1日3~5枚が限界です。

 

 クオリティをどこまで上げるかによって、製作時間はかなり変わります。天井はないので、ここからは個々人の拘り次第でしょう。

 

このAI実験の原稿製作方法は、おそらく漫画素人でもできます

 自分はかなり手で漫画を描いてきているので「経験者だからこれだけできるんだろう」と言われがちですが、ネーム以外の絵の部分はほぼ全てAIを使っているので、原稿製作に限れば、AIとクリスタを学べば誰でも同じ事が出来ると思います。加筆も破綻を直したり、キャラクターや衣装の整合性を合わせたり、表情を修正する程度しかしていません。

 

 画像AIを使う上で重要なのは、絵に対する「ディレクション能力」でしょう。今後画像AIが普及した場合、これを求められる事が増えてきそうです。様々なインプットで見る目を養い、適度なアウトプットで表現技法を鍛える。画像AIが台頭しても、やる事は変わらないと思います。どのような未来が来ても対応できるよう、自分自身の感性を豊かに育てていきたいです。

 

 そして、これはAI実験企画なので出来る限りAIを使用して漫画を制作していますが、本当に効率化を目的とするならば、全てAIを使う必要もありません。自分はこの企画をやっているのもあり、どこをAIでやると効率的で、どこをAIに任せようとすると非効率的なのかが可視化され、実用に活かす方法論が見えて来ました。

 

 しかし、何を効率的とするかは個々人にもよります。自分が苦手な部分はAIに任せたいが、得意な部分は自分でやった方が速い、など様々なケースがあるため、実際使ってみないとわからない事も多いでしょう。この記事が少しでもその参考になれば幸いです。

 

次回予告

 元々全5回予定でしたので、次回で最終回になります。

 

 今までの集大成として、今度は絵のクオリティを追求したいです。時間があればですが! AIの進化は早いので、来月になったら違う技術が出ていて、そちらを試している可能性もあります。AI黎明期故のライブ感も楽しんでいただければ幸いです。

 

 次回もお楽しみに!!

 

野火城

 アナログ時代から漫画を描いてきたクリエイター。漫画の補助としてAIをどう使えるか実験中。X(Twitter)で生成AIを使用した漫画「AIずきん」を公開し、3万件を超える「いいね」が集まる。

 

「AI昔ばなし」Kindle版発売中!

 

文● 野火城 編集●ASCII