「悪」見据える作家・中村文則氏が語った京アニ事件と青葉被告「最悪な自分終わらせる暴発」

AI要約

京都アニメーション放火殺人事件の背景や犯人の過去、そして事件が現代社会に与える教訓について考察する。

小説家の中村文則さんが事件を通して犯人の過酷な成育歴に焦点を当て、他の人生があった可能性や救いの機会について述べる。

青葉被告の過去や環境を踏まえつつも、個人の責任や生き方についても考える。

「悪」見据える作家・中村文則氏が語った京アニ事件と青葉被告「最悪な自分終わらせる暴発」

 「京都アニメーション放火殺人事件は、京都地裁であった22回の公判を経て、今年1月、殺人罪などに問われた青葉真司被告(46)に死刑判決(控訴中)が言い渡された。2019年7月18日に発生した惨劇は間もなく5年を迎える。経済的困窮、孤立、虐待…。法廷で浮かんだ凶行の深層から、私たちはどんな教訓を紡ぐのか。事件が現代社会に突きつけた問いを追う。

 母の不在と父の虐待、経済苦による転居に不登校…。京アニ事件の公判では、死刑を求刑された青葉被告の過酷な成育歴が犯行に与えた影響にも焦点が当たった。一方、「被告にだって『救いのポイント』はあった。本当にささいなことで人生は変わる」と強調する作家がいる。「悪」を主題に数々の小説を発表し、背負わされた困難への抵抗と克服を描いてきた中村文則さんだ。彼の目に映った京アニ事件とは。

 公判で明らかにされた家庭環境と異なっていたら、青葉被告は罪を犯していないと思う。彼は「怒りを抑えると恐怖に変わる」と発言していた。父親からの暴力を根底とした恐怖があり、怒ることでそれを解消していたのかもしれない。非常に悪い影響があった。

 だが、ひどい環境でも懸命に生きている人はたくさんいて、罪を犯さずにいる。つらい過去があったとしても、彼自身の責任は大きい。「あなたのやったことは絶対に間違っている」と言いたい。

 ただ、彼には別の人生があったのではないかと強く思う。どんな環境に育っても救われる機会はさまざまにある。僕自身、家庭環境は悪く、小さい頃から生きにくさを感じてきた。そして、純文学と洋楽のロックに救われた。それがなかったら、自分がどうなっていたか分からない。まともに生きていなかったと思う。人生にはそんな出合いが必ずある。彼が出合うべきものは別にあったはずだ。そういう意味で、僕は彼に同情する。

 例えば柔道を続けていられたら、どうなっていただろうか。中学時代の大会で準優勝した経験は強烈だったはず。だが、転校先には柔道部がなかった。彼は体を動かす方が、周囲にも頼りにされたかもしれない。ライトノベルに感銘を受けたというが、文化に触れて生きがいを得るような過程が見えない。すぐさま「自分も書ける」と考え、自らが成功するための手段にしてしまった印象だ。