京アニ事件で命落とした武本監督 亡き後も刻まれる命の証し 実名で記す相棒や部活仲間の胸中

AI要約

京都アニメーション放火殺人事件で犠牲になった36人には、それぞれの人生と名前があった。公判で複数の被害者名を伏せる異例の「匿名審理」が適用され、実名報道の是非が問われた。

アニメのオープニング映像に登場する武本康弘さんも事件の犠牲者であり、作品に感動を呼び起こしていた。

武本さんの生きた証しは、作品制作だけでなく小説の形でも表現され、彼の才能と貢献を称える形で記録され続けている。

京アニ事件で命落とした武本監督 亡き後も刻まれる命の証し 実名で記す相棒や部活仲間の胸中

 京都アニメーション放火殺人事件で犠牲になった36人には、それぞれの人生と名前があった。理不尽に未来を奪われたクリエーターたちの氏名を巡っては、公判で複数の被害者名を伏せる異例の「匿名審理」が適用され、実名報道の是非が問われた。事件は2024年7月で発生から5年を迎える。実名と匿名で揺れる社会と、亡き人の生きた証しに思いを巡らせる。

 アニメのオープニング映像には惨劇の犠牲となった武本康弘さん=当時(47)=も名を連ねていた。事件から2年後の2021年7月。京都アニメーションが手がける人気シリーズ「小林さんちのメイドラゴンS」のテレビ放映が始まると、インターネット上に歓喜と悲嘆が入り交じったファンの投稿が相次いだ。

 <名前があって思わず涙><ありがとう>

 武本さんは女子高生の日常を描いた「らき☆すた」や劇場版「涼宮ハルヒの消失」などスタジオが誇る代表作で監督を務めたリーダーだった。事件後、スタジオの焼け跡から見つかったサーバー内にあった武本さんの絵コンテなどを基に「メイドラゴン」の続編は完成した。「シリーズ監督として名前を頂戴した」。京アニの八田英明社長は武本さんの名を作品に残した思いを語っていた。

 武本さんの生きた証しはその後もさまざまな形で日の目を見た。23年11月に出版された小説「MOON FIGHTERS!」もその一つ。近未来の月が舞台の物語は、武本さんが生前に膨らませていた構想をきっかけに作家の賀東招二さんが筆を執った。

 武本さんとたびたびタッグを組んだ賀東さん。亡き人への思いを尋ねようと取材を申し込んだが、「全く整理がついていない」と対面取材はかなわなかった。

 それでも賀東さんは、小説のあとがきに武本さんの名を記し、この企画が武本さんにとって初めての完全オリジナルアニメになるはずだったことを世に伝えた。盟友が練り上げたキャラクターの原案に命を吹き込んだ理由を「死をくじくことにもなるはず」とつづった。