「買収されてから約20年、何をしてきたんだ」西武池袋本店ストライキを率いた男の苦悩

AI要約

2023年8月31日、西武百貨店のシャッターを下ろし、社員300人が池袋でデモ行進を行った。

そごう・西武労組の寺岡氏が外資系ファンドによる売却交渉に反対し、ストライキを決断した経緯。

百貨店の文化や役割、百貨店としての存在意義に対する寺岡氏の信念。

「買収されてから約20年、何をしてきたんだ」西武池袋本店ストライキを率いた男の苦悩

「池袋の街に、百貨店を残そう!」

「西武池袋本店を守ろう」

2023年8月31日、西武百貨店は終日シャッターを下ろして店を閉じ、300人を超える社員が池袋の街をデモ行進しました。

このストライキを決断し、実行したのがそごう・西武労組の寺岡泰博・中央執行委員長です。

寺岡氏は2016年に中央執行委員長に就任、待っていたのは、外資系ファンドへの新たな「会社売却」交渉でした。しかも、そごう・西武を支える中核店舗の池袋店の不動産をヨドバシカメラに売却し、店舗の半分を家電量販店に改装するというのです。

自分たちはこれまで、百貨店人としてのプライドを胸に働いてきた。会社売却しても「雇用を守る」と経営者は言うが、百貨店で働くことと、ヨドバシカメラやコンビニで働くことはまったく意味が違う。「雇用」ではなく、「雇用の場」を守ってほしい。百貨店人としてのプライドを知ってほしい――。

5000人の社員の先頭に立ち、闘いつづけた熱い男の魂の記録、寺岡氏の著書『決断 そごう・西武61年目のストライキ』より、一部を抜粋してお届けします。

前編記事<50名の参加を見込んでいたデモは300人に膨れ上がった――西武池袋本店ストライキの真実>

私が中央執行委員長を務めるそごう・西武労働組合は、2023年8月31日、百貨店としては61年ぶりのストライキを決行しました。

委員長として、ストに踏み切ることは本意ではありませんでした。

お客さまにかけるご迷惑や、お取引先さまとの信頼関係、地域における社会的な反響の大きさを考えれば、誰だってやりたいとは思わないでしょう。会社側との団体交渉でストの可能性に言及し、組合員にスト権の投票を実施して93.9パーセントの支持を得たときも、実際にストをする気はありませんでした。「事前協議の継続」というわれわれの要望に会社側が誠実に向き合おうとしなかったことで、結果的にストライキに踏み込むことになってしまったのです。

デモ行進中は沿道の皆さんから温かいご声援をいただきましたが、厳しいご意見もあったことは承知しています。「百貨店は斜陽産業で、すでにその存在意義を失っている」という見方もあるでしょう。

「どうせ潰れる会社なんだから、いまさらストなんかやって頑張っても意味がない。もっと早く頑張れよ」「どうしようもない百貨店を買ってくれるだけマシだ」というご意見を耳にしたこともあります。

しかし私は、そうは思っていません。

百貨店は、一企業だけのものではない、その街で長くお客さまに愛され、地域に深く根ざしたお店は、街の文化の一部、公器であるというのが私の考えです。

西武池袋本店は戦前に創業し、旧セゾングループの時代からずっと池袋の街とともに歩んできました。お客さまに育てられ、支持されてきた自負があります。店舗として黒字であり業界でトップクラスの売り上げを誇り、年間6500万~7000万人もの入店客数を誇るこの店舗が否定されることは、すなわち百貨店という文化そのものを否定しているに等しいと私は考えています。

この日のデモ行進で先頭に立ったそごう・西武労働組合中央執行副委員長の割石はハンドマイクを持ち、

「池袋の地に、百貨店を残そう」

「西武池袋本店を守ろう」

「日頃からご利用いただいているお客さまに、これからも、お買い物を楽しんでいただきたい」と連呼し、後続のわれわれもそれに声を合わせて訴えました。

県庁所在地など、あらゆる地方都市に百貨店がある時代はたしかに終わったかもしれません。しかし、大都市圏を中心にいま、百貨店の売り上げは急回復し、史上最高の利益を挙げる店舗、会社も出てきています。

百貨店の最大の資産は「人」だとよく言われますが、そごう・西武には長年小売りの現場に立ち、お客さまと信頼関係を築いて、自ら商品を試し買いし、その本当の価値を知ったうえで販売にあたる販売員が数多くいます。

ブランド衣料でさえワンクリックで買える時代になっていますが、ネットでの購入はどうしても一人よがりというか、これなら大丈夫という「安全策」の選択になってしまいます。経験ある店員から提案を受けることで自分の新しいスタイルを発見したり、価値観が変わったりすることもあると思います。それによっていままでと違う形で満足感が充足され、お客さま個々の生活や人生を変えていくことにもつながるのです。

今後、AIが発達してアマゾンやZOZOのようなEC(電子商取引)業態がさらに進化していくことは間違いありません。

しかし、これまでにも何度も時代にあわせて変化し、対応することで百数十年にわたって続いてきた百貨店という業態が消滅することはないと確信しています。そうした変化への対応力を含めて「文化」だと考えていますし、おカネで買えない価値を提供することができると思っています。

コンビニという業態は目覚ましい発展を遂げてきましたし、今後もさらに発展していく可能性を秘めています。

食料品から日用品、衣料まで、コンビニ店舗さえあれば生きていくのに必要なものはすべて揃うとも言われます。しかし、それだけで生活に充足感を得られるかは人それぞれですし、暮らしの豊かさを感じることはあっても、毎日は難しいのではないでしょうか。

「生活必需品」の定義が十人十色であるように、小売りの業態によって背負う役割・求められる期待感はそれぞれ違うのです。