じつは多くの人が知らない、東京一極集中の「本当の正体」

AI要約

全国知事会が人口減少問題の解決に向けた緊急宣言をまとめた際、東京都と地方県の認識の違いが露呈した。

小池知事は東京一極集中が人口減少の原因ではないと主張し、地方知事たちは地域ごとの人口減少を憂慮している。

議論がまとまらず、人口減少対策の視点が全体と地方との間で食い違っていることが明らかになった。

じつは多くの人が知らない、東京一極集中の「本当の正体」

全国知事会が8月2日にまとめた人口減少問題の解決に向けた緊急宣言をめぐり、東京都と地方県の認識の違いが露呈した。

緊急宣言の文案に「人口減少の構造を改めていくためには、人口や産業が特定の地域に集中している現状を見過ごすことなく」という一文が盛り込まれていたことに、東京都の小池百合子知事がかみついたためだ。

「人口や産業が特定の地域に集中している」とは、東京一極集中のことである。小池知事は「因果関係が不明確であり、本質的な課題解決につながらないため、削除すべき」と求めたのだ。

これに対して、地方の知事の一部が反発。結果として、緊急宣言はこの一文は変更せず、小池知事の主張を欄外に追記するという政治決着が図られた。

小池知事は同日の記者会見で、「パイの切り方を変えても発展は望めないと思う。むしろ。いかにしてパイを増やすかを議論すべきではないか。あそこのコミュニティー(全国知事会)はちょっと違う色合いだと強く感じた」と不満を口にした。

小池知事と地方の知事たちとどちらの言い分が正しいのだろうか。

両者の見解が対立するのは、人口減少の捉え方が異なっているためだ。議論がまったく噛み合っていないのである。

人口減少を日本全体として捉えると、小池知事に軍配が上がる。総人口に占める外国人の割合が極めて小さい日本においては、人口減少は亡くなる人より生まれる子ども数が少ない「自然減少」が原因だ。東京一極集中は人々の自由な居住地選択による人口偏在の「結果」にすぎず、それによって人口減少が起きているわけではない。

東京都にしてみれば、呼び掛けて人口を集めているわけではないのに、人口減少の"犯人"のように扱われるのは迷惑ということだろう。

これに対し、地方の知事たちは人口減少を県単位で捉えている。地方の多くは「自然減少」に加えて、東京都への人口流出という「社会減少」が人口を減らす大きな要素となっている。しかも、「未来の母親」候補である10代後半から20代の女性の流出が大きく、「自然減少」をさらに悪化させる結果を招いている。とても看過することはできないということだ。

人口を容器に入った「水」に例えて考えると分かりやすい。人口減少とは、国という大きなコップの底に穴が開き、水が流れ出している状態である。普通に考えれば、真っ先にすべきは穴を塞ぐことだろう。

ところが、地方圏の知事の多くはこうした思考とはならない。ものごとを都道府県単位で考えるのが"仕事"だからだ。それぞれの小さなコップにも穴が開いて水が漏れ続けているというのに、小池知事が持っているコップの水量を気にかけ、各県から水が流れ込んでいることに目くじらを立てているのである。そんなことをしているうちに、東京都を含めてすべてのコップの水が空になってしまう。

地方の知事たちの理屈で政策を進めていっても行き詰る。仮に、東京都への人口流出が止まり、地方移住の流れが大きくなったとすれば、県単位では部分的に人口状況は改善する可能性がある。改善まで至らなくても減少スピードが緩まる程度の成果が出るかもしれない。ところが、日本全体の人口が激減してしまうのだから、こうした"小さな成果"は長続きしない。それでも地方の知事たちにすれば十分ということなのだろう。

地方の知事たちの危機感は心情的には理解するが、本来は小池知事が述べたように「いかにしてパイを増やすか」を考えなければならない。増やすことができないのであれば、人口が減っても成り立つよう社会を作り替えていくしかない。しかしながら、政府は地方の知事の側に立ち、「地方創生」の名のもとに東京一極集中の是正という人口減少対策とは程遠い政策に邁進している。