品種改良で夏場も出荷できる養殖マガキ ドバイや香港など海外にも輸出されるブランド「大入島オイスター」

AI要約

マガキの養殖技術改良により、夏場でも出荷可能になり、漁業者の収入安定を図る取り組みが進んでいる。

特殊な技術が必要な3倍体のマガキの養殖が広がりつつあるが、稚貝の供給に関する課題も生じている。

地域の漁業者がさまざまな取り組みを通じて、3倍体マガキの生産と流通を促進し、安定した収入を得る取り組みが行われている。

品種改良で夏場も出荷できる養殖マガキ ドバイや香港など海外にも輸出されるブランド「大入島オイスター」

 冬を代表する味覚の一つ、マガキ。九州でも養殖に取り組む地域が増え、晩秋から初春にかけて漁港にカキ焼き小屋が並ぶ風景があちこちで見られる。養殖技術の改良が進み、近年は季節外れとされてきた夏場も出荷できるようになった。漁業者の収入安定を図る取り組みが広がっている。

 大分県佐伯市の離島、大入島のカキ養殖場で今月中旬、出荷を待つブランドカキ「大入島オイスター」が水槽に並んでいた。養殖会社を経営する宮本新一さん(46)は「冬と遜色ない味わいです」と胸を張る。

 マガキは産卵期の夏場に可食部が痩せて水っぽくなるため、従来は出荷されていなかった。大入島オイスターは品種改良で産卵を抑制した「3倍体」と呼ばれる稚貝を育てている。夏でも痩せず栄養たっぷりのカキを出荷することが可能になった。

 約10年前にカキ養殖に取り組み始めた宮本さん。2019年にこのブランドの生産手法を確立し、2年前に3倍体の通年出荷に乗り出した。徐々に知名度が広がり、現在の販路はドバイや香港などの海外輸出が3割を占める。

 雇用の場が少なく人口減が進む島で生まれ育った宮本さんは「このカキで、若い人たちが安定して働ける場を作れないか」と思い描く。養殖量をこれまでの倍の約120万個に増やす計画だ。

 通年出荷の動きは、佐伯市以外にも広がる。福岡市漁協唐泊(からとまり)支所は昨年から「唐泊恵比須(えびす)かき」の3倍体の養殖を始めた。年間総出荷量約60トンのうち3倍体はまだ3トンに過ぎないが、支所の担当者は「先々は比率を5割に増やし、カキで年中収入を得られるようにしたい」と話す。福岡県糸島市や宮崎県日南市でも、3倍体のマガキのブランド化を図る動きがある。

 3倍体の人気が高まる一方で、新たな課題も生じている。特殊な技術が必要な3倍体の稚貝を生産しているのは一部の企業に限られ、養殖業者が生産量を増やしたくても稚貝を十分に入手できないケースが生じている。

 カキ漁師が自ら3倍体の稚貝を作ることで安定供給につなげようと、大分県は24年度から、3倍体の稚貝育成技術の研究を始めた。水産試験場などで実験を重ね、大分の海洋環境に合った育成法の確立を目指す。県水産振興課は「技術開発で漁業者の所得向上を後押ししたい」としている。 (中村太郎)