「もう肩代わりはしたくない」家族が国民年金や健康保険料を未納するとどんな影響があるのか?弁護士が解説

AI要約

家族の中に国民年金や健康保険料を支払っていない人がいる場合の影響について

被保険者の扶養義務や生活費の問題、家族の負担について解説

扶養義務の程度や支払いの有無による将来の影響について考察

「もう肩代わりはしたくない」家族が国民年金や健康保険料を未納するとどんな影響があるのか?弁護士が解説

 もしも、家族の中に国民年金や健康保険料などを支払っていない人がいた場合、家族にどのような影響があるのか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。

【質問】

 両親と同居している私の兄はまともに働いたことがなく、国民年金や健康保険料の督促状が届くため、親が仕方なく支払っています。すでに10年以上支払っていますが、両親も生活にゆとりがないので、できれば肩代わりしたくないそうです。兄の年金や保険料の納付を放っておいたら、家族にもデメリットはありますか。(静岡県・40才女性・会社員)

【回答】

 国民年金は「日本国内に住所を有する20才以上60才未満の者で厚生年金の被保険者やその配偶者でなければその被保険者になる」ので、保険料の納付義務がありますが、被保険者が属する世帯の世帯主も連帯納付義務を負います。

 また、事業所に勤めていて健康保険の被保険者になる者やその被扶養者以外は、国民健康保険の被保険者になります。

 お兄さんは働かず生計をご両親に頼っており、その被扶養者です。世帯主もご両親のいずれかでしょう。もし世帯主が会社勤めをしていればその社会保険が使えますが、保険料の督促がお兄さん宛てに送られたとすると、国民健康保険の保険料のことだと思います。

 お兄さんが督促を無視して支払わなければ、将来、国民年金の給付を受けられません。当面のこととしては、保険治療を受けることができないということになり、極めて困窮した事態になることが予想されます。

 その場合、無駄に毎日を過ごした結果の自業自得だと見捨てることは、人情からできることではないと思いますが、法的にも難しいといえます。というのは、民法では「直系血族および兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定められているからです。

 大病して治療費に困ったお兄さんから援助を求められた場合、ご両親が高齢になって収入がなくなったり死亡したりすればきょうだいが対応せざるを得なくなります。

 きょうだいは、自身に生活の余裕がまったくなければ負担を拒否できますが、そうでなければ程度はともかく扶養に応じざるを得ません。どの程度の扶養にするか協議ができなければ「扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して」家庭裁判所が定めることになります。お兄さんに対する扶養義務が認められる場合、その対象である生活費には保険料も含まれます。

 一方、これらの保険料を支払っておけば、お兄さんは保険治療が受けられ、扶養義務の履行を求められても、少なくとも国民年金の老齢基礎年金の受給年齢(65才)以後は、お兄さんの受け取る年金額の分は扶養が必要な生活費から控除されます。

【プロフィール】

竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。

※女性セブン2024年8月1日号