キケンな燃料輸送もう必要なし!「油の地産地消」 兵器大手がPRする新たな手法とは ?
環境問題への注目から、代替燃料の一つであるe-fuelが注目されている。
ドイツの企業が軍事分野でのe-fuel活用を提案し、軍用車両にも導入が進められている。
燃料の安全保障や環境問題解決に向けた取り組みが展開されている。
昨今の環境問題への関心の高まりから、各国で注目されるようになっている代替燃料に「e-fuel」があります。これは二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を原材料にして製造されるもので、石油の代替品になります。
ドイツの防衛企業であるラインメタル社は、同じドイツのクリーンテクノロジー企業であるINERATEC社と協力して、軍事分野でのe-fuelの提案を行っており、2024年6月にフランスのパリで開催された安全保障関連の見本市「ユーロサトリ2024」では、独自開発したe-fuelを使って、軍用車両を実走させるデモンストレーションを行いました。
ラインメタルによると、e-fuelは従来の合成燃料と違って風力や太陽光といった環境に負荷を与えない方法で生成されているため、温室効果ガスの排出を全体でゼロ(使用時の排出ガスを製造時の排出ゼロで相殺)にする、いわゆるカーボンニュートラルを実現しているそうです。
しかも、作られた合成燃料はこれまで化石燃料を使用していたエンジン車でそのまま利用できるとのことで、「ユーロサトリ2024」の会場ではディーゼルエンジン搭載の軍用車両「カラカル」にe-fuelを入れ、実際に走らせることでその使い勝手の良さをPR。最後は透明なグラスに注いで、従来の化石燃料との違いをビジュアル的にもアピールしていました。
e-fuelの一番のウリは地球環境への負荷低減です。しかし、ドイツの大手防衛企業がわざわざ軍事分野でも利用するのは、環境問題だけでなく、安全保障の観点からも大きなメリットがあるからです。
ラインメタル社は、e-fuelを軍事活動時の現場レベルで使用するだけでなく、その生産能力も構築する「Giga-PtXプロジェクト」というものを発表していました。
これはe-fuelを精製するのに必要なプラントを開発・製造し、それを部隊や補給線の近傍に設置して、部隊が行動するのに必要な各種燃料(ディーゼル、ジェット燃料など)をe-fuelで賄っていくという計画です。
そもそも化石燃料というものは、原油の発掘から精製・輸送まで一貫して用意する必要があり、広大かつ複雑な地球規模でのサプライチェーンが必須の代物です。しかも、昨今のウクライナ戦争で各国が影響を被ったように、ひとたび混乱が起きれば国境を越えて物流網に大きなインパクトを与えます。
軍隊が担当する補給業務(いわゆる兵站)でも、燃料の輸送はその量が膨大なうえに、戦時下では補給部隊そのものが極めて脆弱で、かつ相手側の攻撃を受ける可能性が高くなっています。ラインメタル社によると、戦時における兵士1人あたりの1日の燃料消費量は20~60リットルだそうで、2001年から約20年にわたって行われたアフガニスタン紛争におけるNATO(北大西洋条約機構)連合軍の死傷者の60%は、燃料輸送を始めとした補給任務中の部隊で発生したとのことでした。
Giga-PtXプロジェクトでは、その脆弱な化石燃料のサプライチェーンと危険で手間の掛かる輸送業務を、前線に比較的近い位置に開設されたプラントで精製することにより問題解決をはかろうという試みであり、その主目的は環境負荷の低減というよりも、軍事の兵站業務の大改革だといえるでしょう。